カジノ っ て 何

カジノ っ て 何

「まぁ説明するよりも早くやらなきゃいけないことがあるわね、石動さん!ちょっといい?」鏡花は声をあげて近くにいたエルフ、石動に声をかける、すると下北と話していた石動は話を中断して鏡花たちの方にやってくる「どうした?何か用か?」「うん、実は今度の授業で静希と模擬戦やってほしいのよ、全力で」鏡花の言葉にその場にいた静希は思わず吹き出してしまった、一体鏡花が何を言っているのか訳が分からなかったからでもあるが、唐突過ぎて理解が追い付かないのだ「・・・それは構わないが、少し前にも模擬戦ならしたぞ?引き分けだったが・・・」「そう言うのじゃなくて今度はちゃんと白黒つけてほしいのよ、もちろん全力で」石動としては静希と戦うこと自体はやぶさかではないが、巻き込まれようとしている静希からすればたまったものではない勝てそうもない戦いに身を投じるような趣味は無い、訓練だからそれも経験の内だと言われたってそう何度も死線をくぐるような真似はしたくないのだ石動との戦闘は本当にそれほど神経をすり減らす戦いになるのである「おい待て鏡花、この前だってほぼ負けに近い引き分けだったんだぞ、こいつが全力でやって俺に勝ち目があるわけないだろ」「そうかしら、あんたが殺す気で行けばそうでもないんじゃないの?」返す言葉がないのか、静希は項垂れてしまう、鏡花の言うように静希が本気で殺そうとすれば石動を殺す手段はいくつか考えられる、だがだからといって静希が石動を殺す理由など一つもない何より模擬戦と言っておきながら殺すつもりでやるなんて矛盾している「授業の訓練でそんな危険な手札を使えるわけないだろ、危険すぎるっての」「ふぅん、エルフが相手でも危ないくらいの強い手札を持っていながらそれを使わないってのはどうなんでしょうね」鏡花の言葉に近くにいた石動が視線を静希に向ける、その眼にはわずかな怒気が含まれているのが静希にも理解できた怒っているというよりは不満を覚えているようだった、なにせ訓練とは言え手を抜かれていい気持ちがするはずないのだ安い挑発だ、確かに静希はエルフでも受け切れるかわからないようなレベルの手札をいくつか有している、だがこれはあくまで切り札だ、恨みなどない、恩すらあるような同級生に向けるものではない「ほう・・・五十嵐、お前は私相手に手加減をしていたのか、私はお前のためを思って手を抜いたが、もしやそれは余計な世話だったか?」「まてまて落ち着け、あれが平常時の俺の全力だ、武装は全部使った、可能な限り策を弄した、あれ以上は」「切り札を使わないと無理よね、あんたの切り札強すぎるし、下手したら石動さん殺しちゃうものね」誤解を解こうとする中鏡花が畳みかけるように情報を突き付ける間違ってはいない、だがなぜ今この状況でそれを言うのか、ここまで鏡花がたきつけるという事で静希は理解した、鏡花は静希と石動を戦わせ、クラスメートが見ている前で静希に勝たせるつもりなのだ確かにエルフに勝ったという事実は今までの『静希が劣等生である』というレッテルをはがすには十分すぎる要素だろうだがだからといって静希の切り札を友人相手に向けろなどといくら何でも承服しかねる「・・・五十嵐、事実か?お前の切り札は私を殺し得るほどのものか?」不満そうな石動の声音に、静希は額に手を当てて悩んでいたどう答えたものか、明らかに静希を注視している状態で石動相手に嘘偽りが通じるかどうかも怪しい、何より静希と同程度に頭が切れる鏡花が二人を戦わせようとしている現状、素直に答えるしかないのかもしれない「・・・最悪、死ぬこともある、確かに俺はそう言う手札を持ってる、だからこそお前には使えないし使いたくない」「・・・それは私が死ぬ、そう言う可能性があると思っているからか」「当たり前だ、俺はお前と殺し合いをするつもりはない、誰がなんと言おうと俺はお前を殺したくない」静希の言葉に石動は僅かに迷いの色を見せ、それを眺める鏡花は僅かに笑みを浮かべている、一体鏡花は何が目的なのか静希と石動を戦わせるだけならわざわざこんな挑発じみたことをする必要はない、ただ単に模擬戦を持ち掛ければいいだけだ恐らくその場合間違いなく静希は負けるだろうが「・・・五十嵐、私はエルフだ、お前が周りの人間から落ちこぼれといわれていることは知っている、そんなお前が私を殺し切る術を持っているとは思えない・・・」無論お前が優秀であることは知っているがと付け足しながら石動はまっすぐに静希の方を見る、石動の言うように静希は落ちこぼれのレッテルを張られている、それに間違いはない一方石動はエルフだ、実力でいえば学年、いやもしかしたらこの学校で一番の戦闘能力を有しているかもしれない、それほどの実力者だそんな相手を殺し切る術を静希が持っている、その事実に石動は疑問を持つと同時に興味を抱いていた「五十嵐、一回でいい、お前の切り札とやら、私にぶつけてみろ」石動の提案に静希は歯噛みしながら眼光を強くする、その眼にはわずかな苛立ちが宿っていた「いい加減にしろ、俺はお前に切り札は使わない、何度言えばわかる」「エルフである私を殺せると豪語されたのだ、侮辱とまではいわずとも一種の挑戦のそれに等しい、私はエルフとしてお前の切り札を打ち勝って見せる、私の挑戦を受けろ、五十嵐」石動の言葉に静希は呆れを通り越して怒りさえ覚えていた、何故この女子はこんなにも力を誇示するのか、なるほど、若いとはいえ石動もエルフなのだろう全力でやってなお、自分がただの能力者に負けるとは思ってもいないのだろう、今まで静希を純粋に賞賛できていたのも、自分がはるか高みにいるからこそだったのかもしれないだが自分より戦闘能力においては格下だと思っていた人物が、自分を殺せるかもしれないと言った、それは彼女にとって、挑戦のように見えたのだろうそしてここまで話が進んでようやく静希は気づく、鏡花はこれを狙ったのだと石動は大人のエルフと違い話がわかるほうだが、大人のエルフと同じように強い能力を持つことでエルフの強さに少なからず誇りを持っている節がある、彼女はそれを刺激することで静希を無理やりに土俵に上げるつもりだ静希が友人に切り札を使いたがらないという事を理解しているからこそ、石動を焚き付けることで強引にその場を作ろうとしているのだお前では私は殺せないから安心して私に立ち向かって来い、私は何時でもお前の全力を受け止めてやる石動の言葉はそう言っているようだった最初から格下扱いされるのは静希としてもいろいろ思うところがあるとはいえ、事実であるのも確かだ、石動と自分では総合的な戦闘能力は雲泥の差がある体を鍛え技術を磨き、かつての自分とかけ離れた実力を身に着けようと根本から性能の違う相手に対しては全く意味がない十の力が百になろうと、万の力を持っている相手にとってはさしたる違いはないのだそして石動の視線が自分に注がれている中、静希の目つきが変わる、鏡花はそれを見て僅かに背筋を凍らせた「石動、何度も言わせるな、俺はお前に切り札を使うつもりなんてない・・・それにお前を殺す程度なら切り札を使うまでもないんだよ」「・・・なんだと・・・?」ドスの聞いた静希の声に石動はわずかに警戒を強める、静希が怒っていると思ったのだろうか、その声には狼狽の色が覗えただが鏡花に言わせれば違う静希は今演じている、圧倒的な圧力を叩きつけながら、石動が前言を撤回するように自分の頭を触ってみろという静希の言葉に、石動は言う通りに自分の頭に手を当てると、そこにはいつの間にか静希のトランプが顕現していた能力によって死角から顕現させたトランプ、石動に宿る精霊なら気づけたかもしれないが完全に注意を静希に向けていた状態で話している余裕はなかったのか、その事実に石動は驚いていた「その中には銃弾がたっぷり入ってる、その気になればいつでも殺せる・・・いいか、俺の得意分野は不意打ちだ、お前と本気で殺し合うなら、お前とまともにやり合う選択肢自体が俺にはないんだよ」それはかつて静希が陽太と戦ったときのように、静希はまともな手段で戦おうとはしない、相手を揺さぶり、自らの策にはまるようにコントロールする時には意識の外から、時には視界の外から、いつ来るかもわからないような攻撃を仕掛けるのが静希の専売特許だ要するに石動に能力を発動された時点で静希の負けのようなものなのだ、だから本気でやろうとしたら能力が発動する前に倒す、それが一番手っ取り早い「いいか、俺の切り札は敵にだけ向けるためのものだ、どうしようもない状況を切り開くためのものだ、お前の御大層な誇りのために使うもんじゃない、お前にメリットがあろうと、お前に切り札を使うメリットが俺にはないんだ」「・・・私にメリットが・・・?」「違うのか?自分の力を証明したいだけなら教師相手と戦ってろ、そっちの方がよほど箔がつく、俺を相手にしたところでただの弱い者いじめだ、そんなもんでお前が証明したがる誇りが大したものだとは思えないぞ」石動に圧力を加えるのと、石動を怒らせるの、同時にやってこの場を乱闘のようにさせればきっと誰かしらがこの場を収める、石動との関係は悪くなるかもしれないが彼女を危険に晒すよりずっとましだこのままでは鏡花の思い通り石動に切り札を使うことになりかねないのだ、それだけは避けたいところである「取り消せ五十嵐、私は損得勘定でお前と競い合いたいわけではない、そこまで堕ちたつもりもなければお前をそんな風に見たこともない、先程のそれとは違う、これは明らかな侮辱だぞ・・・それにお前自身が自分を弱者などと、口が裂けても言ってはならないことだ」石動は自分の誇りが侮辱されただけではなく、自分と戦い、なおかつ条件付きとはいえ引き分けにまで持ち込んだ静希が自分自身を弱いと認識していることが許せないようだった自分だけではなく、誰かのために怒ることができる、石動は本当にいいやつだなと実感しながらも静希はその眼光と圧力を弱めることはしなかった「事実を言ったまでだ、お前等エルフにとっては、俺みたいな弱小能力者は虫けらみたいなものだ、そんな奴をいたぶるのが趣味か?だとしたらそれこそ程度が知れるぞ」「・・・お前は弱小などではない、周りの人間がいくらお前を蔑もうとも、私はお前が強者であると知っている、そんなお前と競い合いたい、それがそんなにおかしいことか?力を誇示する誇りがそんなにおかしいことか?」僅かに声を荒らげた石動にクラスメートの何人かが静希達の方に視線を向けたがすぐにまた辺りは雑音に包まれていく石動は純粋に、自分の全力と静希の切り札の力比べをしたいのだろう、エルフとしてただの能力者に負けられないという気持ちと、静希を強者と認めるからこそ負けたくないという気持ちが同居しているようだっただがだからこそ、静希は首を縦に振るわけにはいかなかった「何度でも言うぞ石動、お前に切り札は使わない、使いたくない・・・俺はお前を殺したくない」誤字報告が五件分溜まったので二回分投稿二回分がすごく少ないような気がしてならない今日この頃、もう末期ですねこれからもお楽しみいただければ幸いです

「はいはいそこまで、二人とも熱くなりすぎよ」二人がにらみ合う中、場の空気を変えようと鏡花が手を叩くこの状況を作り出した元凶が何をのんきな声を出しているのだと静希は鏡花を睨むが、鏡花は落ち着きなさいよという視線を静希に向けると石動も落ち着かせるべくとりあえず座らせることにした「お互いに意固地になってたら話が前に進まないわ、ここは折衷案で行きましょう」「・・・折衷案?」石動の疑問に、鏡花は笑みを浮かべて応える、そしてその笑みの意味を、そして鏡花が天才と呼ばれる由縁を静希は思い知ることになる「静希、あんたが切り札を使いたがらないのはよくわかる、十分危ないしね、そして石動さんが静希に負けたくないってのも、負けない自信があるってのもよくわかる、だったら両者が納得する形で決着を付ければいいわ」両者が納得する形、そんなものがあるとは思えないが静希と石動が互いに視線を交わすと、鏡花はにやりと笑って一枚の紙に条件を書き記していく「静希と石動さんには今日の訓練の時間に模擬戦をやってもらう、けど条件がある、静希が一定時間以内に石動さんに傷を負わせることができたら、静希は切り札を使わない、逆に石動さんが傷を負わずに静希を戦闘不能にできたら、その時は切り札を一回だけ使わせる、これでどうよ」その条件に石動はなるほどと呟くが、静希は大きく項垂れてしまう、前提条件が静希に不利すぎるのだ「お前な、石動相手に傷一つ付けるだけだって俺の手札じゃ難しいんだぞ?何でこんな条件に」「あんたが得意なのは不意打ち、そして殺すだけならいつでもできる、さっきあんたが自分で言った事よ・・・だから小さな傷でも負わせることができれば石動さんには切り札を使うまでもないって解釈、あんたとしても悪くないんじゃない?」ここまで聞いて、静希はようやく理解した、鏡花がなぜこの話を振ったのかこれは二段構えの策だ、仮に静希が石動に傷をつければ、全力の戦闘でエルフに傷をつけたという事実が残る、そして逆に静希が負けても切り札によって石動を戦闘不能状態にできる可能性がある、結果によってはエルフを打倒したという事になりかねないもし勝負を受ける場合、石動を守るためには静希は全力で彼女を傷つけようとしなくてはならない、小さな傷だけで十分なのだ、命の危険に比べればその程度たいしたことはないだろうだがこの勝負を受ける理由は一つもない、鏡花の案では石動が危険に晒されることに変わりはないのだ「おい鏡花、いくらお前でもわざわざ俺に箔を付けるためだけにこいつを利用しようってんならまた痛い目を見てもらうことになるぞ」「別にあんたに箔を付けようってだけじゃないわよ、あんたの新しい切り札の実験、石動さんの意識改革、あんたの周囲の認識改善、単独戦闘の総合戦闘訓練、一石四鳥くらいの内容が詰まってるんだからね」陽太の指導を一年間こなしていたためか、指導や課題に対する答えの導き方やその内容の効率の良さが異様だそこになによりと付け足して鏡花は石動を指差す「一度本当に危ない目に遭っておけば、石動さんもこれは危ないって理解できるでしょ?少なくとも物理攻撃なら石動さんは多少耐性があるんだから、一発くらい平気よたぶん」「そのたぶんが怖いんだっての!お前万が一石動の体が吹き飛んだらどうするつもりだ?そんな危ない橋わたりたくないっての!」いくら石動の能力が強力であるとはいえ限界がある、もし防御しても防ぎきれないレベルの攻撃だった場合、彼女の体がバラバラになることだってあり得るのだそんな危なすぎる綱渡りは絶対にしたくないところである「全力で石動と戦うってのはまだ了承してやるよ、傷一つ付けるだけで勝利っていう条件なら何とかなりそうだしな、でも切り札を使うってのは無しだ、そこは譲れない」「あんたも結構頑固ねぇ・・・まぁ予想はしてたけど・・・それじゃあそうね・・・石動さんとしてはどうなの?死ぬかもしれないけど静希に切り札使ってほしい?」「そこまで脅されても未だ信じられんな、そもそも五十嵐の切り札とは何なのだ」そう言えば静希の切り札の内容を教えていなかったのを思い出し、鏡花の視線が静希の方に向く、しゃべってもいいだろうかという確認だろう本来切り札の情報そのものは隠しておきたいのだが、このままだと説得もできない、ある程度手の内を明かすのも必要だろう「・・・なるほど、硫化水素に太陽光、そして高速の弾丸か・・・」声を小さくして石動にそれを告げると、彼女は唸りながら思考し始める、三つの切り札だけを教えたが、メフィや邪薙のことは勿論教えていないこの三つだけでも十分石動を殺すに値する手段なのだ「確かに硫化水素と太陽光に関しては私の能力では防ぎきれんかもしれんな、だが三つめなら防ぐ自信はあるぞ、戦車砲程度の威力なら防ぎきる自信はある」静希の能力で収納しておける質量は五百グラム、たとえいくら加速したところで戦車砲ほどの威力が出せているかどうかは疑問であるなにせ今もなお切り札である高速弾は作成途中なのだ、今どれほどの速度を有しているのか静希でも理解できていない「まぁこの間作り始めたばっかだし、そこまで速くはなってないんじゃない?それくらいなら使ってあげてもいいんじゃないの?」「・・・」自信満々にしている石動と諭すようにそう告げる鏡花に、静希は眉間にしわを寄せながら口を噤んでいた納得したわけでもないし、理解したわけでもない、なおかつ許可できるはずもない、そこで静希は新しく条件を付けることにした

「じゃああれだ、陽太の最大威力の槍を耐えられたら、高速弾を使うのを許可してやるよ、それならいいだろ?」静希の提案に鏡花はその手があったわねとわざとらしく手を叩く、静希がこの提案をすることも予想済みという事だろうか陽太の称号『攻城兵器』の由来にもなった最大威力の槍、あれを防御できたなら戦車砲以上の威力を防ぎきれるという事は証明されるそれほどの防御力を持っているのであれば使っても万が一はあり得ないのではないかという気がしたのだそして陽太の実力を測り、なおかつ石動の防御を破れば陽太の評判を回復させることもできるかもしれない、二重どころか三重で静希と陽太の評判回復に貢献する形になる「響の一撃か・・・最高威力という事は以前使っていた槍というわけではないのだな?」「えぇ、少なくとも戦車の主砲よりは威力がある攻撃よ」陽太の一撃は強い、生身で受ければ一発で戦闘不能になるほどの威力を有しているのは実際に戦った石動も十分に理解しているだろうだが生身で戦うだけが陽太の強みではない、むしろ鏡花との連携においてその真価を発揮すると言ってもいい「新しい切り札はいまどれくらいの威力になってるのか俺にもわからないんだ、ただの拳銃のそれより劣るかもしれないし、もしかしたら音速なんて軽く飛び越えるくらいの速度になってるかもしれない、なにせ作り始めてまだ一週間も経ってないんだ」あくまで試射、そう言う意味では本来なら鏡花の作る的などを作ってそれに撃つのが一番正しい方法なのだろうだが鏡花はわざわざ石動に協力を要請した、丁度良かったのだろう、肉体強化のできる能力を持ち、なおかつ防壁や鎧も作れて、さらにエルフであるという存在などそういない褒められた方法ではないにしろ、鏡花が求める評価の改善としてこれ以上の相手はいない「響の一撃を耐えることができれば、お前の切り札とやらにも耐えられる・・・という事か?」「耐えられる可能性が上がるってだけだな、少なくとも俺がこれを使う時は全力で防御するってことを約束してくれ・・・まぁ俺がお前に傷をつければその約束も意味ないけどな」その言葉に石動は体を震わせながら笑いをこらえているようだったいや、もうこらえることもせずに声を漏らしながら笑っている「どういう事だ五十嵐、今まで相対した時よりもずっといい表情をしているじゃないか・・・本気を出す気になったのか?」「・・・お前が死なない可能性がないわけじゃないんだ、俺は全力でお前に傷をつけるぞ、切り札を使う必要が無いようにな」今まで以上に、今までとは比べようのないほどに充実した静希のやる気を感じ取ったのか、石動は嬉しそうにしている互いに手加減をした戦いではなく、互いに本気になった戦いができるのだと石動は先程の怒りなど忘れ嬉しさに満たされていた訓練の時、静希はいつも気を遣って戦っていた当然だ、相手を必要以上に傷つけるようなことはしたくないからだ、相手が中間距離を得意とするような中衛であれば『殺さない攻撃』をすることくらいはできるが、相手が接近戦を得意とする前衛だと、そんな器用なことはできないだから致死性の低い攻撃をメインに攻撃を繰り出していたが、今回ばかりはそんな生易しいことを言っていられないこの場で僅かながらに傷をつけられなければ、殺してしまうかもしれないのだ「お前との対峙は何時だって心が躍る、何故だろうな、響と対峙した時はこんな感覚は無かった」「さぁな、好みの問題なんじゃないのか?」剣で対峙した時も、先日の訓練戦闘の時も、石動は静希と戦うとわかると心が躍った純粋に楽しみだというのもある、だがそれだけではないのだ、静希は次に何をしてくるかわからない、そしてその技術のほとんどが努力によって培われたものだからかもしれないエルフとして訓練を重ねた石動と、能力者として訓練を重ねつづけた静希どちらに軍配が上がるかなど決まりきっていることではある、大人と子供ほど戦力の違いがあるのだだが同時に相性と言うものもある、中間距離を得意とする静希と、接近戦を得意とする石動、静希が遠距離からの攻撃に徹することができれば勝機はあるもっとも、前回それをやろうとして結局追いつめられていたのだが「それじゃ決まりね、模擬戦は森林地帯にしましょうか、この前は石動さんに有利な岩石地帯だったし、今度は静希有利ってことで」森林地帯、確かに静希が得意とする地形だ、だが明利の索敵がない状態では石動と条件はほとんど変わらない身を隠して死角からの攻撃ができるという点では、確かに静希に有利なフィールドだろう「構わないぞ、五十嵐もそれでいいか?」「あぁ、問題ない・・・んで戦う前に陽太の攻撃を受けろよ?」わかっているさと石動は笑いながら上機嫌で自分の席に戻っていく「・・・お前な、今回のはさすがにやりすぎだぞ、後先考えなさすぎだ」「ちゃんと考えてるわよ、少なくともあんたと石動さんの関係を悪くしないでなおかつあんたに有利に事が運ぶようにセッティングしたつもりよ?どんな形であれ傷つけたくないって言われてうれしくならない女の子はいないんだから」鏡花の言葉に静希は呆れてしまう、静希が石動の説得に使うであろう台詞さえ予測してこの場を作ったという事だろうさすが天才というだけある、一年間問題児をまとめ上げるための班長として身を置いたおかげで、いやそのせいでというべきか、どちらにせよその人物がどのようなことを考え行動するのかというのを予測するのが身についているようだった「もし会話が別の方向に進んだらどうするつもりだったんだ?一歩間違えば喧嘩になってたぞ」「それは無いわね、石動さんってあんたの事特別扱いしてる節があるし、たとえあんたがエルフの誇りとやらを公然と侮辱したところで怒らないでしょうね・・・むしろさっきあんたが演技を始めた時ちょっと戸惑ってたわよ?」ひょっとしたら怒らせてしまったのかもしれない、もしかしたら静希の逆鱗に触れてしまったのかもしれないそう言う意味でわずかな後悔すら見せた一瞬だったのを鏡花は見逃さなかった、要するに石動は静希を気に入っているのだ東雲姉妹のこともあって、静希が優秀であることも知っているし人格的に優れていると思っているのだろう、だからこそ良い友人として競い合いたかっただがその過程で静希を怒らせてしまったのではないかと感じ取ったのだ実際は石動を引き下がらせるための静希の演技だったわけだが「それにもしあんたと関係が悪くなったとしたら、私がフォローを入れるわよ、静希は貴方が大事だから傷つけたくなかったのよとか言って、さすがにそう言われたら静希の心情を察せずにはいられないでしょ?」自分の切り札で石動を傷つけてしまうかもしれない、だから使いたくないそれは静希の本心だ、良い友人として石動を傷つける理由などそもそもないのだ鏡花はあくまで事実だけ伝えて石動を扇動し、もし自分の思ったような流れにならなかったら同じように事実だけ伝えて互いを取り持つつもりだったのだ今までだったら静希が使うような心因的なゆさぶりを鏡花が使うとは思いもしなかった、いや正確には思うように転がされたというべきだろう、なにせ鏡花が石動に伝えたのはあくまで静希の切り札に関する事だけだったのだから「お前は本当に敵に回したくない奴だな」「それはこっちの台詞なんだけどね、少なくともあんただけは敵に回したくないわ・・・まぁ今回のはちょっとやりすぎたかなって私も思うけど」他人の人間関係を利用したうえで成長や変化を促すというのは鏡花にしてみれば珍しいそれもまた、静希が絶対に石動相手に切り札を使わないという意志を読み取っての行動だったのだろう鏡花は必要のないことはしない、そう考えれば今回のことも、彼女にとっては、そして彼女の思い浮かべる理想のためには必要だったのかもしれない結果的に石動と静希の関係は悪化しておらず、順風満帆のまま話が進んでいるが、一歩間違えれば、先程静希が言ったように喧嘩になっていたかもしれないむしろ静希は喧嘩を誘って仲違いになってもいいから石動との交戦を避けようとしていた、だが結果的には条件付きで交戦する羽目になっている「鏡花、一度はっきり言っておくぞ」「何かしら?」静希は目を細めてドスの聞いた声を出す今度のそれは演技ではない、心の底から、そして何の嘘偽りもなく怒りを込めて鏡花を睨んでいた「お前が俺たちの評価を改めようってのはありがたいけどな、それに今度また俺の知り合いを利用して危険な目に遭わせようっていうなら・・・覚悟しておけよ」「・・・肝に銘じておくわ」静希は敵には容赦がないが、身内にはとことん甘い、傷つけるべき相手と守るべき相手くらいは区別できる、そしてその境界線はとてつもなく大きく、隔てることができないほどに広い一度静希に身内認定されてしまえば傷つけられることはない、逆に一度静希に敵認定されてしまえば、もはやそれはどうしようもない死刑判決のようなものだもちろん静希とて自分に対する周囲の評価を改善しようとしていた鏡花に感謝の念がないわけではないだがその方法が問題なのだ威力も分からない、効果も不明な状態でいくら防御力に定評のある石動とはいえ受け切れるかもわからない攻撃をしたくない「でも正直言うとさ、これ以外にあんたの評判回復って思いつかなかったのよね・・・班で成績残しても私がいるからみたいな感じで見られるし、あんた個人が誰かに勝たないとって考えると、石動さんが適役だったのよ」以前優秀班に選ばれたときも、それは静希達の力ではなく鏡花の力のおこぼれをもらったという風にとらえられていた、確かに班自体の評価では静希の評判を回復させるには至らないだろうそう考えると確かに石動との個人戦での勝利というのは手っ取り早く、なおかつわかりやすいなにせエルフに勝ったという結果が知れ渡るのだ、石動の戦闘能力をもってしてただの能力者に負けるという光景は確かに思い浮かべることは難しい「俺と石動が戦ったらどっちが勝つかは明白、そうなると俺に切り札を使わせるしかないと、そういう事か」「そういう事、前から持ってる二つはさておきこの前作ったのは殺傷性はまちまちだし、石動さんなら耐えられるかなって思ったのよ、どれくらいの威力なのか私も把握してないけどね」計算上そこまでの威力を出すのは難しいしと付け足して鏡花は少しだけ申し訳なさそうな表情をしてため息をつく「まぁ、あんたが怒るのはもっともだし、ちょっとえげつないなってのは自覚してるわ、ごめん」「・・・まぁ、二度とやらないならそれでいい、問題はこれからだよ・・・」今日の訓練、しかも授業中にそれを行うという事は少なくとも多くのクラスメートにも見られる可能性が高い模擬試合をすることもあって森林地帯の訓練場を貸し切る形になるだろうが、自分の手の内を衆目に晒すというのは静希としてはあまりいい気はしなかった評価者人数が325人を超えたので二回分投稿十月からの新ルールを活動報告の方に記しておきました、気になる方は見てみてくださいこれからもお楽しみいただければ幸いです

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「え?で結局俺はどうすりゃいいわけ?」授業で訓練を行うべく演習場に向かう中、静希が軽く事情を説明するのだが陽太は話の内容をほとんど理解していなかったのか首をかしげていた「要するにあんたは石動さんに全力の槍を使えばいいのよ、条件は私が確保しておいてあげるから」「そうか、了解」さすがは陽太専門の指導教官、陽太にもわかるように適切な言葉を選ぶことに関しては鏡花の右に出るものはいないだろう事前の申請により時間制限付きだがすでに森林地帯の演習場を借りる手はずは済んでいるそうだ、城島にもその旨を伝えてあるのだという手際がいいのは結構なのだが、実際戦う静希としては気が重いばかりである「ちなみに静希、お前勝算はあるのか?傷一つ付ければオッケーとか言ってたけど」「・・・そうなんだよなぁ・・・現状手がないわけじゃないけど・・・めちゃくちゃシビアなんだよ、そもそもあいつ相手にするってだけで負けが確定してるようなもんなのに・・・」いくら自分に有利なフィールドとはいえ石動本人の戦闘能力が下がるわけではない、結局のところ静希が自分自身で何とかしなくてはいけないのだこの前の引き分けだってかなり運の要素が強かったのに、今回同じような、いやそれ以上の成果をあげなくてはいけないのだ、気が滅入るのも仕方がないと言えるだろう「万が一のことを考えて明利にはしっかり待機しておいてもらうから、ぼろぼろになっても安心よ」「えっと・・・怪我はしないようにね」明利としても石動と戦うというのはあまり良い気分ではないのか、少しだけ困ったような表情をしているが、余計な危険に晒すわけにはいかない以上静希が全力で戦わなければいけないのは変わらない腹をくくるしかないなと覚悟したうえで静希達は演習場へとやってくるまだ本格的に授業が始まらないという事もあって、適度な運動や能力の訓練が認められる四月の演習、静希達はまずコンクリートの演習場の隅で準備運動をしていたそこには静希達だけではなく石動達の姿も見えた、その近くには大きめのクーラーボックスの姿も確認することができた「遅いぞ五十嵐、準備はできているだろうな?」「絶望感で腹を下しそうだよ、まずは陽太の出番だ、それまでに準備運動終わらせておくからちょっと待ってろ」静希が体を軽く動かしながら準備運動を進めている間、自分の出番だと言わんばかりに前に出た陽太が嬉々として能力を発動する「それじゃあまず石動さんが陽太の槍に耐えられるかどうかね、これをクリアしたら静希は切り札の使用を許可する、異論はないわね?」「ないよ、さっさとやれ」準備運動を続ける静希に最終確認をとった後で鏡花は地面を足で叩き、金属でできた球体を作り出す、陽太の槍の威力を上げるために必要不可欠な質量だ、陽太は右腕に槍を作りながらその金属を溶かして槍の中に閉じ込めていく以前刑務所の門を破った時と遜色ない、もしかしたらその時よりも大きいかもしれない槍を前に石動は驚きを隠せないようだった「なるほど、これが本領というわけか」「おうよ、簡単に静希に相手してもらえると思うなよ?」もちろんだと言いながら石動はクーラーボックスの蓋を開けると、その中には大量の血液パックが内包されていた以前動物園に持って行ったようなのとはその数が明らかに違うことがわかる、何リットル、もしかしたら何十リットルにも及ぶかもしれないほどの量の血液に静希は眉をひそめる「全力でぶつかると宣言したからには、有言実行させてもらう、これが私の最大戦力だ」今まで石動がコツコツ用意してきた血液、そして今の時点で石動が操れる、能力を発動できる最大の血の量、それがあのクーラーボックスの中に入っているのだろう陽太は金属を入れることで質量を確保しその威力を上げているが、彼女の場合質量を持った血が増えれば増える程能力が強化されるのだ、その威力は計り知れないとはいえ今回は石動は防御に徹する形だ、陽太の攻撃を耐えればそれでよし、耐えられなければ静希の出番そのものがなくなるのだ「陽太、使っていいのは第一段階の槍までよ、白と青は厳禁」鏡花の言葉に陽太は明らかに不満を抱いているようで、えー・・・と声を漏らしてやる気をなくしている「なんだよ、せっかくだから全力でやりたいんだけど」「威力変えたら不公平でしょ、それにもし暴発したらどうすんのよ、後片付けするの私なんだけど?」「アイアイマム、仰せの通りに」さすがに面倒をかける程の事ではないと理解したのか、陽太は槍を構えて集中を高めていた、炎が燃え盛り、その体が一層熱くなっていくのが傍目でもわかる一方石動は陽太から二十メートルほど距離を置き、クーラーボックスの中に入っている血液をすべて自らの体に纏い、堅牢な鎧を形成していた、今まで見たことのある動きやすさ重視の鎧ではなく、守備力重視の分厚い装甲を有した鎧だ、陽太の槍が高い威力を持っているという事を察したのだろう「んじゃせーので行くぞ、しっかり構えとけよ?」「問題ない、一度は止めた攻撃だ、今度も止めて見せようじゃないか」石動の挑発ともとれる言葉に、陽太は全速力で走り出しその槍を石動めがけて叩き付けた砕け散る音が周囲に聞こえる中、静希達はその結果をその目で確認した石動は陽太の槍の攻撃を真正面から受け、かなり後方へと運ばれていた以前と同じように血の鎖を大量に展開し足元に杭として打ち込むことで陽太の槍を受け止め、同時に自分がそこから動かないようにしたのだだが陽太の槍がそんな程度の固定具で止まるはずがないコンクリートの地面は砕け、石動の体は後方へと運ばれてしまう、その槍の威力を一身に受けた石動の血の鎧は僅かに傷をつけられているものの、その槍は彼女の体には届いていなかったそして石動はかなり後方に運ばれた事実を確認しながら大きく息をつく「この場合、耐えたという事になるのか?清水」「・・・そうね、鎧自体はしっかり形を保ってるし、防御できたってことにしましょうか」「ちくしょう・・・せめて炎の色変化が使えれば」陽太にとっては半ば手加減した形で攻撃したために満足していないのか、不満そうに槍を片付けていた、炎の色を変化させた状態で槍を維持するのに関してはまだ実戦投入できないレベルなのだとか調子が良ければ一分を超えても維持できるのだというが、それでは実戦では使えないのだという、まだまだ陽太の訓練は先が長そうだった「さて、これで私はお前への挑戦権を得たというわけだな?五十嵐、まさか男に二言はあるまいな」「・・・はぁ・・・もうどうなっても知らないからな?ただし使う時は最大防御をするって約束しろよ?」約束しようと石動は上機嫌になりながら静希の前で胸を張る、陽太の槍さえ防いで見せたその防御力、体が完全に固定されていなかったからこそ衝撃が緩和されたというのもあるかもしれないが、血の鎧の防御力はただの鎧よりよほど強いのだろう陽太は全力を出せなかったことで少々悔しそうにしているが、仮に全力だったところであの鎧を破れたかどうかは怪しいものであるまず間違いなく石動の体は吹き飛んだだろうが、その鎧を破壊できたかはわからないとはいえ石動は確かに戦車の主砲級の攻撃を防いで見せたのだ、静希も腹をくくらなくてはいけないだろう『メフィ、万が一の時、弾丸の速度を緩める事ってできるか?』『肉眼でとらえられる速さならね、それ以上だと難しいわよ?今から弾丸を遅くするようにするのにも時間かかるでしょうし・・・何よりキョーカが許すとは思えないわ』石動を危ない目に遭わせるくらいなら自分の持つ切り札の威力をわざと弱めることを考慮に入れていたのだが、実際それは難しいようだった今鏡花に頼んで場所を作ってもらうにしろ加速し続けた物体を減速させるのだって時間がかかる、空中に出せばそれだけで空気抵抗によって減速するだろうが音速を超えていた場合衝撃波が発生しすぐにばれるだろう『じゃあ射出する方向と真逆に力を発生させることは?』『それなら何とか、でも距離によるわね、減速がどれくらいできるかもわからないし・・・』メフィもあまり自信なさげだが本番の一発勝負の時になんとかしてもらうしかないメフィ自身が加速した物体を減速するなんてことはやったことがないのだろう、当然だ、そもそも加速自体ここまで重ねがけのような形で行ったことがないのだから「それじゃあそれぞれ入り口に行ってくれるかしら、制限時間は十分、それ以内に静希が石動さんにかすり傷でも与えることができたら切り札の使用は無し、逆に石動さんは傷を負わせられないか、静希を戦闘不能にすれば勝利よ、時間切れになったら電話するから、はい時間ないからさっさと動く!」これから始まろうという静希と石動の勝負に周囲のクラスメートの何人かの視線が二人に注がれる何人もの視線が注がれる中、その中には勝てるはずがないのにと半ば嘲笑に近い物も含まれている、当然だ、普通に考えれば勝てるはずがないのだそれは静希だって十分に理解している、だが勝たなくてはいけない、石動を危険に晒すわけにはいかないのだ多少荒っぽい手段を使うことになってもどうにかして石動に傷を付けなくてはいけないだろうとはいえ陽太の一撃を防ぐほどの装甲を有している石動相手に静希の手札でどうにかなるとは思っていない、だが陽太には無いものを自分は持っているのだ、多少の無茶は許容してしかるべきだろう多少痛い目を見ることになっても、それは仕方がない演習場の入り口に着いた静希はトランプの中からオルビアと拳銃を取り出す、悠長に取り出していられるような時間的余裕はないのだ『メフィ、あともう一つ頼みがある』『あら何かしら、直接手を下すっていうのは無しにした方がいいと思うけど?』『安心しろ、そう言う話じゃない、ちょっと手を貸してくれればいい』静希のその言い分にメフィは静希が何を言わんとしているのかを察するなるほどねと呟いた後でメフィは嬉しそうに、そして同時にどこか悔しそうに笑って見せる『シズキがそこまでする価値のある相手なのかしら?ただのエルフの小娘のように見えたけど?』『結構恩やら借りやらがあるんだよ、森に入ったらすぐに仕込みをする、森に入ってすぐが勝負の分かれ目だ、いいな?』『了解よ、まったく人使いが荒いんだから』文句を言いながらもメフィは嬉しそうだ、頼られて悪い気はしないのだろう静希が言うように森に入った瞬間、そこから数分の間に勝負が決まると言ってもいいだろう、なにせ相手は石動だ、悠長に待っていたらすぐに追い詰められることになるだろう、それは以前の訓練戦闘ですでに味わっている試合開始時間になり、静希と石動は同時に森の中に侵入した静希はメフィの協力のもと仕込みをしようと一時的にメフィを取り出すが、同時に森の奥から強烈なプレッシャーが襲い掛かってきた急いだ方がよさそうだ静希はメフィに魔素を注いでもらい自らの体に襲い掛かる痛みを無視して拳銃をジョーカーの中に入れ、すぐに取り出す強制的に体に魔素を注入することで以前作り出したジョーカーを使用し拳銃を一時的に強化する、これが仕込みだ黒い瘴気のようなものが噴出する拳銃を懐にしまい込んですぐにメフィを再びトランプの中にしまうスキンの中にある右手の黒い浸食部分が増加しただろうがそんなことはいちいち気にしていられない、一度使うまではこの拳銃は強化された状態にあり続ける、ここからが勝負だ静希はオルビア片手に森林地帯を疾走する、同じ場所にいれば相手の思うつぼだ、いや同じ場所にいようといまいと、石動にとっては変わらないのかもしれない待ち伏せだとか追いかけっこだとか、そう言う次元の勝負にすらなりはしないのだまだ森林地帯に入って一分も経過していない、だというのに静希はその姿を見た血の鎧を纏い、まるでイノシシか何かのように突進してくる石動の姿を大量の血を体に纏い、重量が増しているはずなのにその速度は通常の人間のそれとはかけ離れている前の戦闘と同じだ、圧倒的な身体能力を発揮しての接近戦、障害物の少ない岩石地帯やコンクリート上では真っ直ぐ突っ込んで体当たりするだけで静希は戦闘不能になるだろうだがここは森林地帯、視界は制限され、その体を視線により捉えることは難しい、何より石動が大量に展開できる鎖鎌に似た形状の武器もこの密集地帯では使用が難しい、そこに勝機があると静希は睨んでいたこれで明利がいればいくらでも罠を張り放題なのだが、今は個人戦、そんな悠長なことをしている時間的余裕はない、なにせ「見つけたぞ五十嵐ィ!」こちらが向こうを見つけられるという事は、あちらも向こうを見つけられるという事でもあるのだ、静希に有利だというのは、本当に若干でしかない、ほぼ条件はイーブンなのだ木の間を縫うようにして突進してくる石動に静希は大量にトランプを飛翔させる、以前も行ったトランプでの視界制限、ただでさえ視界の悪いこの場ではこの補助動作がかなり有用に働いたとはいえ高速で動き続ける石動の身体能力に、何の強化も施されていない静希の体が勝てるはずがなかった、視界が制限されようとも、一瞬だけ映る静希の姿を確認して即座に方向を変換してくる戦い慣れた前衛はこれだからやりにくい、静希は内心舌打ちをしながらトランプの中から何発か銃弾と釘を射出するだが、まるで当然のように、小石でも当たったかのような容易さでそれらは石動の鎧を前に弾かれてしまう、やはり通常攻撃ではダメージは与えられないようだと、一旦木に身を隠しながら大きく静かに息をつく通常攻撃では石動の装甲は撃ちぬけない、ならば関節はどうだろうか、血液でできているとはいえあれは鎧の形をしている、ある程度関節部分の装甲は薄いのではないかと考え、再び静希は走り出すその動きを待っていたのか、まるで分かっていたかのように石動は先に大きな球体のついた鎖状の血を静希めがけて放った彼女としてもむやみな殺傷はしたくないという気持ちの表れだろうか、刃ではなく球体を使ってくるあたり多少手心は加えているようだっただがほぼ直線上に向かってくる攻撃程度、静希に避けられないはずはない、雪奈の攻撃に比べればまるでスローモーションだだが石動の本命は遠距離攻撃ではなかった放たれた血球を自らの体から切り離し、障害物である木々を縫うように一気に静希との距離を縮めていく、回避行動をとった後すぐの静希は簡単に石動の接近を許してしまっていた距離がゼロになる刹那、彼女の体を覆っていた血の鎧の形が変わり、血球のついた鎖となって大量に静希めがけて襲い掛かってきた一本、二本なら回避もできただろう、目算でも十本はあるような攻撃が一斉に静希めがけ向かってきている回避は難しいそう判断した静希は自分の体に当たる数本をオルビアで受け流し、顔めがけて向かっていた鎖を一本、左腕で掴み、全力で引き寄せた鎖の根元は石動の体につながっている、思い切り引き寄せれば石動の体勢を崩し、狙いを変えられるのではないかと思ったのだだが石動はびくともせず、逆に引き寄せられたのは静希の方だった考えればわかることだ、重い方と軽い方、どちらが動きやすいかなんて小学生でもわかる本来の体重なら静希の方が体重は重い、だから普段の状態であれば静希に石動が引き寄せられたかもしれないが、今石動はその体を血液によって覆い、その重量を増している、それこそ静希よりもずっと重くなっているのだ左腕を全力で駆動させ引き寄せたせいで静希の体は鎖を伝って前へと運ばれる、走るよりずっと速く、体勢など全く考えないような形で、前へ鎖先についた血球の一発が静希の肩を捉えるが、痛みを感じるより先に静希はこの行動の可能性を模索していたそう、今まで当たり前のようにやっていて気づかなかったのだ腕で何かを掴み、思い切り引き寄せれば体は前に進む石動の頭上を越え、地面を転がるように着地しながら静希はすぐにその場から離れるべく走り始めた、無論石動も追ってくる、練習している時間などない、ぶっつけ本番でやってみるしかないのだ静希は意を決して左腕を駆動させた土曜日+誤字報告五件分で三回分投稿これからもお楽しみいただければ幸いです

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静希の左腕、ヌァダの片腕の効果は大まかに分けて二つ一つは使用者の治癒、自動発動するこれは霊装そのものの能力であり、静希自身にもコントロールはできないそしてもう一つは使用者の意のままに動くという、一種の付加効果のようなものだ何故この腕が意のままに動くのかはさておき、意のままに動くというのはそれすなわち、どんな動きでもできるという事であるそれは岩を砕くこともできるほどの握力を発揮し、どんな状況においても力を発揮する疲労などは無い、あるのは意のままに動くという確定事項のみ、それは力であり、また速度でもあった静希は左腕で太い木の枝を掴み、思い切り引き寄せた瞬間、静希の体は加速装置でも発動したのではないかと思えるほどに急速に前へと進んだだが当然のように、その体勢は無茶苦茶だった、移動というにはあまりにも拙く、前進というにはあまりにも荒々しい『一歩』だっただが静希はすぐに体勢を整え視界に入った枝を左腕で掴み、同じように思い切り引き寄せて体を前に進めるそれは静希が走る速度をはるかに超え、石動からの一時的な逃走すら可能にしていた今まで自分の左腕は握力という形でしか使えないと思っていた、だが移動という形で使えるのだと、今さっきようやく気付くことができたこれは使えると思う反面、時間が限られているということを思い出し、静希は木の枝を掴んで急停止する義手の接合面である肩に強い力がかかり僅かに痛みが走るが、今は痛がっている時間は無い、ようやく石動から離れて作戦を練るだけの時間ができたのだそしてさらには石動の動きに対抗できるだけの手段も、拙いながら手に入れることができた石動も全力でこちらに向かってきているのだ、こちらもそれに応えるべく深呼吸をして集中を高める静希がいくら高速で動ける手段を有したところで、反射神経は通常の人間のそれと同じ、極限まで集中力を高めたところで石動のあの動きに対抗できるかどうか否、対抗しなくてはいけないのだ高速で動き続ける状態の石動では関節を狙うという事は無理に等しい、かといって鏡花のように動きを止められるような技があるわけでもないならば少々荒っぽい手段に出るしかない静希は左腕の中に仕込まれた大砲に一発の弾を入れ、準備を整えた石動の姿を視界の隅でとらえるよりも早く、静希は再び左腕を使って移動を開始するそして石動は移動を始めた瞬間に静希を確認し、攻撃を繰り出してきた先程のような血球のついた鎖を、木々の合間を縫って正確に静希めがけて放ち続けるだが木の合間を縫うという動作をしなければいけないためか、軌道は読みやすく、速度も遅い、左腕を使った半ば強引な加速ではあるが何とか避け続けることができていただが本来前衛である石動がいつまでも中距離攻撃に甘んじているはずがなかった血の鎖一本を囮に、木を足場に跳躍するように静希との距離を一気に詰めてくるかかった静希は木を掴み逆に石動に接近する完全に不意を突かれたのか、石動はその腕に刃を作り、構えた状態で硬直していた、今まで逃げていた人間が急に自分に向けて接近してきたのだ、それが前衛型ならまだ予想もできた、だが相手は中距離支援を主とする静希だった以前の訓練戦ではとにかく逃げ回る戦い方をしていた人間がいきなり彼我の距離をゼロにしようとしてきたことで、石動は動揺したそして静希はその動揺を見逃さなかった左腕の肘から先を外し、石動に狙いを定め腋にある引き金を握る瞬間的に石動は静希のやりたいことを把握し、そして周りに展開していた鎖の何本かを自分の前に集め、盾に作り替えた静希の左腕に大砲のような武器が仕込まれていることは以前の実習で見ている、だがその威力はすでに把握していた、だからこそ最低限の盾を作り出して防御し、静希を拘束するつもりだった、動けなくすれば自分の勝ちだ石動だってむやみやたらと静希を傷つけたいとは思わないのだ、友人であり、同じく友人である明利の恋人、傷つけたいはずがないだからこそ穏便に、傷を付けずに勝つつもりだった無論手を抜くつもりはない、全力で静希に勝つ、それが今の石動の戦い方だっただが石動は静希の表情とその顔を見て、自分の判断が誤っていたことを察知してしまう一瞬のはずが、一秒にも満たないその時間が何秒かに延長されたかのような時間の矛盾の中で静希の口がゆっくりと動く、それはこういっているように動いた残念でした邪笑を浮かべた状態で放たれた言葉を聞くより早く、静希の左腕から弾丸が射出される互いにぶつかるような形で接近していた中、静希の体がやや後方に吹き飛ばされるなか、放たれた弾は石動に向けて直進し、彼女が作った血の盾に直撃する石動が以前見た威力の弾ならこの盾で防げるはずだっただが今静希が放った弾は石動の血の盾を貫通し、石動の体めがけて直進した静希の放った弾は、三種類の中で最も貫通力のあるライフル弾、以前石動に見せたスラッグ弾とはそもそも弾としての性質そのものが違う貫通した弾は石動の血の鎧めがけて吸い込まれていく、血の鎧に深々とめり込むライフル弾は、完全に血の鎧にめり込んだ、だがそれ以上の変化はない完全に防がれた静希はそう思いながら即座に左腕をつけなおし、石動は弾丸を体で受け止めた衝撃で体勢を崩しながら地面へと落下していくだが静希の攻撃はこれだけでは終わらなかった石動の体が弾丸の衝撃で一瞬硬直するその瞬間を静希が見逃すはずはない落下というあらがいようもない現象を前に、静希は石動の周囲に大量にトランプを顕現し、石動の関節めがけて一斉に弾丸と釘を射出していた体を動かしている以上、装甲状態にある血では邪魔になる部分も多い、さすがに何の装甲もないというわけではないだろうが鎧部分よりはだいぶ脆いのではと考えたのだそしてその考えは当たっていた、石動の主な装甲以外の関節部分は薄い鎖帷子のような形状になった血液の防具があるだけだったのだ銃弾や釘といった一点突破の攻撃なら十分傷つけるに値する攻撃だったそう、攻撃だった、ほんの数瞬前までは静希の放ったライフル弾が石動の作った盾を貫通した瞬間、彼女は完全な防御態勢に入っていた、まるで蛹のように体全体を血の鎧で覆い、関節部さえもすべて埋め、動くことよりも身を守ることに重点を置いた完全な防御態勢静希がライフル弾を放つと同時に関節部を狙えていたなら、もしかしたら傷を与えることもできたかもしれないが、彼女の体は静希の持つただの銃弾や釘だけでは貫通できないほどの硬度の鎧で包まれていた地面に着地し、石動の状態を確認すると静希は舌打ちしながら一時的にその場から離脱する人に対しては絶対に撃たないという源蔵との約束を破ってまで放ったライフル弾だったのだが、あそこまで完璧に防御されるとは思っていなかった、そしてさらに言えば、薄い血液の盾程度ならあのライフル弾で打ち抜けるという事がわかってしまったこの事実が、なおさら静希をあせらせる、とっさの防御だったとはいえ通常の火力で得られる攻撃で石動の防御を貫通できたのだ、現状威力が不明ではあるものの、切り札の一角を担う高速弾を撃つのはあまりに危険だと判断したのだ何とかして石動の防御を打ち破らなくてはならない、事前に仕込みを終えていた拳銃を使うべきなのかもしれない氷でできた壁や鎧を簡単に貫通する威力を持った弾丸であれば、石動の血の盾と鎧も打ち破れるかもしれない問題はどこに当てるかだ、拳銃という武器の特性上、手加減などという生易しいことができるはずもない、必ずどこかの部位に当てることになるのだが、どこに当てるべきか選り好みできる立場ではないが、殺さないように傷をつけたいのにそれで殺してしまっては本末転倒だ当てるとしたら手足、胴体や頭部は論外だ、もし臓器などを傷つけた場合取り返しがつかないこともあり得る石動に与える傷は最低限にしたい、無論そんなことができるだけの実力が自分に無いのは承知している、半ば特攻という形になるかもしれないが自分は傷を負ってもいいのだ、行動を起こして損はないだろう左腕を駆使して不恰好でも高速で移動する中、背後から草や土を踏み砕きながら高速で移動する足音が聞こえてくる逃げ出した静希を捕えるだけの胆力はまだ持ち合わせているようだった、ライフル弾による不意打ちも全く意に介していないと見える、そもそも石動は逃げていれば勝利できるというのに、わざわざ静希を捕えようとするあたり、やはり前衛の人間であるという事だろう向かってきてくれるのであればやりようはいくらでもある静希はトランプを周囲に顕現しながら石動を牽制する、無論弾丸を受けようが釘を射出されようが止まる気配など微塵もないが今はそれでいいのだ今度はあえて自分の姿を見せる、そして自分の左腕に意識を向けさせるのが今の目的である石動は今のところ静希の左腕にしか自分の防御を脅かす武装は無いと判断するだろう、だからこそ次に静希が左腕を構えた時、強引に回避するか先程と同じように盾を使って防御するはずだ、それも先程のような薄い盾ではなく、分厚い防御に適した盾を用意するだろう当然のように、盾を使えばその分視界は制限される、そこがねらい目だ回避されないようにするには半ば無茶な突進も必要だろう、彼我の距離をゼロにすること、そして回避するような暇がないほどの速度で射出の構えをし、盾を展開したら拳銃を打ち込む空中での行動が大前提だ、地上では悠々と回避されてしまう、こういう状況は不慣れであるために多少不恰好でも構わない、元より不利な戦いを挑んでいることは百も承知なのだ石動から伸びる鎖状の攻撃はその数を減らしていた、先程の砲撃を見て攻撃ばかりに気を取られていると足元をすくわれると察知したのだろう警戒しているのは少々都合が悪いが、攻撃の手が少なくなるのならありがたい、左腕を駆使して木から木へと移動を続ける中、タイミングを見計らって静希は反転する先程と同じ、移動状態からの反転加速にまったく同じ行動に石動は待ってましたと言わんばかりに静希の左腕に血の鎖を数本展開する発射そのものを潰してしまおうという魂胆なのだろう、確かに左腕の大砲が使えなければ今のところ静希の取れる手段はない、石動から見ればこれが最良の策だと言えるもっとも、その策に欠陥があるとすれば、石動が今相手をしているのが静希だという点だろう石動が左腕を封じてくるのは予想できた、防御するよりも攻撃する、それが前衛の考え方だ、相手の行動を封じ、なおかつ自分の攻撃へと転じる、それこそ戦闘において必要なことだ静希と石動の認識に違いがあるとすれば、それは勝利のために必要な道具石動にとってその左腕は勝利に絶対必要なものであると思えた、だが静希にとって、左腕はあくまで手段の一つでしかない鎖に巻き付かれ、動きが阻害される寸前、静希は左腕を肩口から切り離した日曜日なので二回分、そしてちょっと用事があったので予約投稿です、反応が遅れるかもしれませんがご容赦くださいこれからもお楽しみいただければ幸いです

高速で接近する両者は、すれ違うように交差した静希はぶつかりかける石動を足場にして跳躍し、石動は足場にされ、なおかつ掴んで動きを封じたかと思った瞬間に切り離された左腕に意識が集中していたためまともな体勢ではない静希は即座に懐からジョーカーに入ったことで黒い瘴気を吹きだす拳銃を取り出し狙いを定めたさすがの石動もこの状態での回避は難しいのか、全身の血を装甲に変えて完全な防御態勢に入っていたそれはもはや鎧というより血の塊、いや血の岩のように見えた静希は元々あった石動の体の場所を思い出しながら銃を一発放った黒い瘴気を放ちながら射出された弾丸は血の岩へと直進し、その内部へとめり込んでいく一発では足りないか、そう思った瞬間、静希の反対側から銃弾が弾かれるように飛び出してくる完全に貫通してなお威力を保持するとまではいかないようだったが、石動の血の防御を破れるだけの威力は有していたようだつまり石動の血の鎧は、以前戦った氷を扱う能力者の氷の鎧よりは堅牢であるという事だろうが、問題なのはそこではない、石動の体に傷をつけられたかどうかという事だ内部まで見渡すことができるわけではないために、弾丸がどの軌道を描いて貫通したのかを知る術はない、その為少し様子を見るしかない転がりながら地面に着地し、同じく地面に落下した石動を注視する岩のような血の塊に銃口を向けていると、血の岩が爆散するかのように周囲全体めがけて鎖での攻撃を仕掛けてくる静希はいったん木の陰に身をひそめると、向こう側から石動の笑い声が聞こえてきた「ははは・・・あはははははは!危なかった・・・!危なかったぞ五十嵐!あと数センチ逸れていたら傷を負っていた!」石動は何の問題もなく立ち上がり、笑い声をあげている、弾丸が石動の血によって逸れたのだろう、石動は全くの無傷だった静希から奪った左腕を振り回しながら石動は静希を追い詰めようとゆっくりと近づいてくる完全にしとめたと思ったのに、まさか血の装甲で弾丸が逸れるとは思ってもみなかったそれほど石動の能力は強固なのだ、以前の能力者のそれとは大違いである左腕を失った今、先程のような高速移動はできない、ここで勝負を決めるしかないのだ幸い、まだ拳銃はジョーカーに入れた効果を保ってくれている、だがそれも長くは続かない、一度使えばその効果は一定時間で無くなってしまうのだ、急いで使い切らなくては奇形化を進めた意味がない石動の声と足音からその位置を大まかに確認し、木の向こう側にいる石動を、木から出ることなく撃ち抜くべく、二発連続で弾丸を射出する放たれた弾丸は木を易々と貫通し直進するが、警戒状態にある石動が静希の放った殺気を前にのうのうとその場で停止しているはずがなかった弾丸が放たれる寸前、石動は真横に跳躍し放たれた弾丸を容易に回避して見せるだがそれでいい、こちらの放つ弾丸を危険だと思ってくれるならまだ手はある静希はジョーカーに入れておいた拳銃を懐にしまい、トランプの中からもう一丁の銃を取り出すすでに動いている石動に触発されるような形で静希は木の陰から飛び出し、石動めがけて射撃するトランプの中に含まれている弾丸や釘なども駆使して石動めがけて攻撃を当てていくが、彼女は完全によける弾丸を選んでいるようだった静希が持つ拳銃から直接放たれる弾だけを避け、それ以外は無視なぜ静希が直接放った弾丸だけが高い威力を有しているのかは不明なようだったが、静希が有する攻撃手段の中に自分の防御を脅かせるものは複数あるということを認識し完全な警戒状態に移行していたつまり過剰な接触はせずに一定の距離を保ったうえで必要最低限な攻撃で静希の消耗を謀り、隙を見て捕縛するあえて距離をとり、なおかつ攻撃を消極的にしながら回避に専念している石動を見て、静希は舌打ちする、なにせ消耗戦ではこちらが不利なのだ、時間制限以内に石動に傷を負わせられなければ自分の負けなのだからどうにかしてジョーカーの力を持った弾丸を使って傷を負わせなければいけない、だが静希が近づこうとすると石動は距離をとる、完全に警戒状態に入ってしまった、この状態に入られるとただの攻撃を当てるのも一苦労だ静希が直接放つ攻撃はすべて避けるつもりのようで、静希の一挙一動を見逃さないように集中しているようだった逆に言えばそれ以外は完全に無視、どんな行動をしようと、どんな攻撃をしようと意に介さないという事だろうならば、と静希はいったん拳銃をトランプの中に収め、トランプの中からナイフを取り出し石動めがけて投擲する自分に接近してくるナイフを見て石動は一瞬にも満たない時間に思考したこのナイフは避けるべきか否か、先程の銃での攻撃と違い、ただ投げられただけのようにも見える、だがわざわざ静希がトランプではなく自分の手から投げたことに何か意味があるのではないだろうかと思っていた無論静希はただ投げただけのために何の仕掛けもないのだが、静希が直接投げたという事実が石動の思考をかき乱し、一つの傷も許されないという条件が石動を回避へと動かしたその行動から、石動が静希の攻撃そのものに他のものとは一線を画するほどの警戒を向けていることを確認した静希は僅かに笑みを浮かべる左腕も失いバランスもとりにくい、時間ももう限られている、石動を傷つけられる手段はたった一つしかないそんな状況だというのに静希は笑みを浮かべていた石動はこちらを注視している、そしてなおかつその攻撃を避けている、ならば視線は常に静希の方へと向けられているとみて間違いないならばどうするか少々危険ではあるが静希ももう攻撃手段や場所を選んでいられる余裕は無くなりつつあった静希は釘の入ったトランプを操作して石動の顔の近くに持っていく高速で動こうと、その動きに合わせるように移動させる、長年訓練を重ねてきたのだ、多少早く動こうがその動きについていけないほど静希の能力は遅くないいくら血の鎧が堅牢だろうと、目によって情報を得ている以上目の部分に装甲は無いそしてトランプが自分の眼前にあることから静希がやろうとしていることを察したのか、石動は全力で回避行動に移った、その瞬間石動の眼球めがけて釘が射出される頭部の装甲を掠るように弾かれた釘はあたりに飛散するが、間一髪で避けた石動は冷や汗をかきながら再び静希に意識を向けようとその姿を収めるが、その瞬間自分の眼前にトランプが現れるトランプの向こう側にいる静希の視線が恐ろしいほどに凍り付いている様を見て石動の背筋は凍り付いた切り札を使うくらいなら、目を潰すくらいは仕方ない静希の瞳がそう語りかけているようだったのだ静希が自分よりも実戦経験が豊富なのは理解していた、そこまですることができるのかと若干疑っていたところもあった、だが先ほど回避しなければ釘は間違いなく石動の眼球に突き刺さっていただろう静希は本気だ、そのことを認識し、石動は静希から放たれる攻撃だけではなく自分の目に向けて行われる攻撃にも集中せざるを得なくなった回避しきれないのなら一瞬でも視界をすべて血の鎧で覆えばいいだけの事、まだ優利なのは自分だと疑わずに自身も攻撃を繰り返しながら静希のトランプから逃れようと回避行動を続けるそして何度目かのトランプを回避して、静希の方を向こうとした瞬間それは起きた視界外、完全に意識していなかった場所から何かが噴出されたそれは、鎧があるが故の視界制限を逆手にとった攻撃だった石動はトランプに意識を注ぐと同時に、必ず静希を視界に収め、その動きを注視しなくてはいけない、その為には回避した後すぐに静希の方を向く必要があるそのわずかな顔の動きに合わせて、静希はトランプの中の一つから催涙ガスを噴出させた「ああぁぁ!?な・・・なんだ・・・!?」唐突に襲い掛かった目の痛みに石動は反射的に攻撃を受けたと判断して体を完全な防御体勢に移行した、関節も、目の部分も鎧で包み込んだ鼻水と涙で呼吸が苦しくなる中、急接近した静希が片腕と片足を使って石動を転倒させる呼吸が上手くできずにもがく石動を足で押さえつけ、ジョーカーの効力を有したままの拳銃を向ける「痛いけど我慢しろよ!」静希が引き金を引き、弾丸を発射する寸前、二人の携帯が着信を知らせるべくなり始めるそれは鏡花から送られる、時間切れの合図だったあと数秒あれば、静希の指は引き金を引きその弾丸を石動の体のどこかに命中していただろうだが、結果は時間切れ、それを知らせるためになり続ける携帯の呼び出し音を確認し、静希は電話をとる『もしもし静希?時間切れよ、どうなった?』「・・・あぁ・・・あと数秒あれば・・・あと数秒あれば俺の勝ちだったのに・・・!」静希の悔しそうな言葉に鏡花は悪いことをしたわねといいながら苦笑していた確かにあと数秒大目に見てもらえば静希の勝ちだっただろう、だがこれはルールだ、それに従って勝てなかったのだ、ただそれだけ、鏡花は何も悪いことはしていない『で?どうするの?一度戻る?それともそこで切り札使う?』「・・・みんなに見られるのはいやだからここでやるよ、ちょっと待っててくれ、十分くらいしたらそっちに戻るから」わかったわといった後で鏡花は通話を切ったどうしたものかと悩みながら静希は自分に踏みつけられている石動に気付き、足をどけて手を貸すことにした「結局勝てなかったな、もうちょっとだったんだけど」「うぐぅ・・げほっ!こんな手を使ってくる・・・とは・・・!思えば前にも似たようなことが・・・あったな」鼻をすすりながら痛みに耐えている石動、確か以前村に行ったときに彼女には催涙ガスを見せていた、その使用対象は雪奈と熊田だったが、さすがに戦闘中にそんなことを気にしている余裕はなかったのだろう静希はトランプの中から清潔な布と水を出して石動の顔を洗わせた、少量とはいえ催涙ガスを噴射されたことで強い痛みを覚えているようだったが、洗浄したことで多少緩和されたのか顔を拭きながら石動はため息をついていた「以前は私が勝ちに等しい形で引き分けたが、今回はお前が勝ちに等しい形で引き分けたわけだな・・・まったく、やはりお前は大した奴だ」「お前に褒められるのは悪い気はしないけどな・・・とりあえず左腕返してくれ、バランスがとりにくい」先程から静希の左腕をずっと掴んでいたことを思い出したのか、石動は詫びながらヌァダの片腕を静希に返す、静希は装着した後で動作を確認してため息をつくそして石動は逆に胸を張って鼻を鳴らしていた「さぁ五十嵐、引き分けたとはいえ約束だ、お前の切り札とやら、私に使ってもらうぞ?」「・・・やっぱそうなるよな」最初からそう言う条件だったのだ、これ以上先延ばしにすることはできないだろう、腹をくくるしかないなと思いながら静希は今回の事件の中心にあるトランプを取り出した「ところで五十嵐、一つ確認しておきたいのだが」「ん?なんだ?威力がどうこう聞かれても俺も答えられないぞ」少し距離をとりながら怪訝な声を出しながら石動が恐る恐る静希の機嫌をうかがうかのようにしてきたことで静希は不思議そうな表情をするこれから切り札を使うにあたり気になることでもあるのだろうかと思ったのだが、どうやらそうでもないのか、チラチラとこちらを見ながら、僅かに戸惑いの表情を見せていた「その・・・先程お前は私の目を狙ったな?」「あぁ、装甲がないのってあそこしかなかったしな」特に変わった様子もなく静希が答えると、石動はため息をつきながら静希を睨んでいた「もし私があそこで避けなかったらどうするつもりだったんだ?目に当たったら重症だぞ」「まぁそれは仕方ないんじゃないのか?それも勝負の内だろ、それにお前は避けるってわかってたし」前衛の人間に対して単調な攻撃が通じるとは思っていなかったし、何より自分の顔を狙われれば全力で回避することは十分理解していた視覚情報に頼る人間は当然ながら顔に対する攻撃を非常に恐れる傾向にある、そして目を潰されたときに体が硬直するのも把握済みである「それに眼球に傷がついたくらいなら能力使える医者に頼めば治せるしな、まぁ時間も金もかかるだろうけど」「・・・女子の顔めがけて何の躊躇もなしに攻撃するとは・・・少し手厳しいのではないのか?」「生憎と手段を選んでられるほど強くもないもんでな、腕もとられてたし」静希が左腕を奪われた時点で静希の選択肢はかなり狭まったのだ、逆に言えばあの状況においてそれをするほど、静希は拳銃での攻撃にすべてを注いでいたのだ結果、銃弾が逸れるという形で攻撃は失敗したわけだが「・・・じゃあこっちからも一ついいか?確認しておくことがある」「なんだ?」「まだ切り札を受けるつもりか?正直使いたくないんだけど」静希はダメもとで最後の説得のつもりでそう進言した先程の静希の攻撃から石動も理解している、片目を犠牲にしてもおつりがくるほどの威力が静希の切り札にはあるかもしれないのだだからこそもう一度だけ確認しておく必要がある、まだ静希の切り札に対して立ち向かうつもりなのか否か「私は考えを覆すつもりはない、お前の一撃を受ける、その為にこの戦いに臨んだのだ、よもや約束をたがえるなどという事はしないだろうな?」「・・・んなことはしないけど・・・改めて言っておくぞ、完全に防御態勢に入ること、手加減なしの最大出力だ、あともし大怪我しても俺を恨むなよ?」静希はトランプを操りながら石動に最終警告を放つ、そして彼女もそれに応じたのか、体を覆っていた血をすべて鎧と盾に変えて静希の攻撃に備えていた「無論だ、これこそ私が望んでいたことなのだから!来い!五十嵐!」静希との真っ向勝負、石動からすればこれは特別なことだった今まで同年代で自分に競うことのできたような人間はいなかった、そもそもエルフの里では同年代の人間すらいなかった村の学校が廃校になってから喜吉学園に通うようになったが、それでも自分を脅かすような人間はいなかったし、エルフという人種に対して気安く話しかけるような人間も稀有だった高等部に進み、班というシステムの中に入ることで親しい友人はできた、そしてそれを通じて仲の良い人物もできたその中で静希の存在は一種の特別なものだった自分の妹分ともいえる東雲風香を助けてくれた班の人間、村に存在した神格に対処して見せたチームの司令塔、そして条件を変えることで自分に勝って見せた初めての男条件付きでもエルフに勝とうなどとほとんどの人間は考えないのに、静希は条件さえかえればエルフにも勝てるという事を証明してみせたそして今、石動は全力で静希に立ち向かい、ほとんど負けに等しい形で引き分けたつい先日は立場が逆だったはずなのに、自分の方が圧倒的に優利だったはずなのに、条件がほんの少し変わるだけでこうまで力を発揮する、そんな静希に石動は惹かれていただからこそ、静希の切り札を自分の体で受けてみたかった、鏡花曰く今まで試射すらしたことのないものだという静希すら理解していないことを、自分の体を使うことで把握できるのだ、これほど面白そうなことはない『メフィ、頼むぞ』『了解、減衰を始めるわ』静希は目の前にトランプを取り出す、高速弾の入ったスペードのトランプ静希と石動の距離は約五メートル、十分な距離とは言えないが、いつも静希が加速に使っている台に比べれば五倍近い距離だこの距離でメフィが速度をどれだけ減衰できるか、そもそもどれほどの速度を持っているかもわからないのだ、ぶっつけ本番でこんな危険なことをやらなくてはいけないとは思っていなかっただけに静希は大きくため息をつくとはいえ目の前にいる石動が考えを覆すとも思えない、彼女はあれで頑固なところもある一種の教訓としてこれを受けておいて損はないかもしれない「んじゃ、行くぞ!」「来い!」静希は無事であるように祈りを込めて石動の盾のほぼ中心めがけ、トランプの中に入っている弾を射出した一瞬、静希は何が起きたのか理解できなかった風にも似た強烈な圧力がかかり静希の体が後方へ吹き飛ばされたかと思えば、聞いたこともないような異音と共に放たれた弾は石動の盾めがけて直進し、その盾ごと彼女の体を吹き飛ばしていた交通事故にあった時、あんな感じで吹き飛ぶのだろうか自分自身も木に激突しながらそんな感想を抱いたのもほんの一瞬だった、高速で吹き飛ぶ石動は木々に体を何度もぶつけながら転がるように地面に横たわったそして意識を失ったのか能力が解除され、彼女の体を覆っていた盾と装甲はただの血液に戻り、周囲にまき散らされていく「うわぁ・・・だ、大丈夫か石動!?」まるで殺人現場のそれに近い惨状に、静希は血まみれの石動の元に駆け寄る距離にして一体どれほど吹き飛んだだろうか、静希がたどり着くころには石動の周囲は夥しい量の血がぶちまけられていた血だらけの状態では上手く判断できないが、軽く触診してみたところ外傷はほとんどないようだった、そしてわずかにうめく声が聞こえることで静希は生きていることを確認して安堵する「よかった・・・生きてる」どうやら体のどこにも外傷はないようだった、静希の放った弾が石動の体を貫通していたらどうしようかと思ったが、完全防御というだけあって彼女の血の盾はしっかりとその役目を果たしていたようだただ体を守ることはできても吹き飛ぶのは防げなかったようだ、弾自体に当たったのか、それとも衝撃波によって吹き飛ばされたのか、木々に体をぶつけ、頭を強く打ったことで脳震盪を起こしたのだろう、下手に動かすべきではないが、この場所に放置していい状態ではない簡単に見ただけでは気づけないような傷を負っているかもしれない、可能なら明利の所に向かうべきだ仕方がないと呟いて静希は石動を背負う、身長からは想像できないほどに軽い体を背負ってできる限り揺らさないように注意しながら静希は森から抜けようと歩き出した『メフィ、お疲れ様、どれくらい減衰できた?』『さぁ?でもこうして生きてるんだから結果オーライってところね・・・あれだけの威力があるってのは私も予想外だったけど』自分自身の力で加速した彼女としてもまさかあれほどの威力があるとは思わなかったのだろう、本当に一瞬だった、何が起きたのか静希自身も理解できていない高速で射出された弾が石動を吹き飛ばしたというのはわかる、だがそれを肉眼でとらえられなかったのだ音速を超えると、物体は周囲の空気を押しのけるようにして衝撃波を発生させる、それは物体の進行方向の先に行けばいくほど強くなり、速度が上がれば上がるほど強くなる同時に極超音速と呼ばれるマッハ五以上の音速物体の物体先端には極めて強い衝撃波が形成される、石動は恐らくその衝撃波によって吹き飛ばされた弾自体がどこに飛んでいったのかまではわからない、完全に静希の肉眼でとらえられる速度を超えていたためにどこまで飛んだのか、あるいは空気との摩擦熱で融けて消滅したか反応する事すらできないほどの速度、たった数日しか加速していないのにあれほどの速度を作れるという事は、何日も何週間も何年もかければもっと威力を出せるという事になる『・・・メフィ、これからもあの高速弾作るの手伝ってもらえるか?』『・・・うーん・・・まぁいいわよ、いい加減うちで何の仕事を持ってないってのもあれだしね』静希の家の中で仕事を持っていないのはメフィだけだ、邪薙は結界を、オルビアは家事をこなしているがメフィは日がな一日ゲームやらの娯楽にうつつを抜かしている気にしていないと思っていたのだが、存外そういう事を気にする性格だったようだ彼女の場合、後から来た邪薙やオルビアの方が静希の生活に貢献しているという事実が気に食わないのかもしれない、どちらかというとそっちの意味合いの方が強そうだが、協力してくれるというのであれば静希としてはありがたいことこの上ない高速弾、どこまで速くなるか静希にも分からないが、上手くいけば静希の持つ手札の中で最高威力のものになるかもしれないもし可能ならば静希が持つ物理的攻撃手段の全てに加速措置を施して全体の威力の底上げを図りたいところである上手くいけば静希の攻撃はすべて高威力のもので埋め尽くされることになるだろうもっともそれをやるのにも時間がかかるし、何より手間がかかる、とはいえやる価値はある内容だったゆっくりと歩いていると静希の携帯に着信が届き、振動を始める「はいもしもし?」『あ、静希?どうよ首尾は、あれから結構経ったけど』相手は鏡花だった、恐らくある程度予想はできているだろうが静希の口から結果を聞きたいようだった背中で気絶している石動に視線を送りながら静希はため息をつく「石動は俺の背中でおねんね中だ、今からそっちに行くから明利に診察の準備をしておくように言っておいてくれ」『やっぱりそうなったか、了解よ、待ってるわ』鏡花はそれだけ言って通話を切った、静希の敗北、そして切り札によって石動を打倒、良くも悪くも鏡花の思い通りに事が運んだことになる石動にとっては試合に勝って勝負に負けたというところだろうか、静希にとってはどちらの勝敗にも特にこれと言って意味はないためにため息をつくしかないいや正確に言うなら意味はあったのだ、あそこで静希が勝てれば、あと数秒あれば危険な橋を渡らずに済んだし石動をこんな状態にすることもなかったのだ今さら何を言ったところで、考えたところで悔やんだところで何が変わるというわけでもない、自分が弱かったから石動に余計な怪我をさせた、それだけだだが静希の中にあるのはそれだけではないあと少しで石動に勝てたのに条件付きとはいえ真っ向勝負だったのだ、あそこまで彼女を追い詰められたのは初めてだったし、あそこまで拮抗した戦いができたのも初めてだった惜しかったなぁそんな後悔に近い感情が渦巻く中、静希は森から抜け出すべく歩みを進めていた静希が血みどろの石動を背負って森林地帯の演習場から出てくると結果を待っていたクラスメートたちが歓声を上げる石動ではなく、静希が自分の足で歩いて出てきたのだ、しかも気絶した石動を背負ってそれは言葉で繕う必要もない、れっきとした勝者の姿だった「お疲れ様、酷い有り様ね」「能力が解けたせいでな、明利、軽く診断してくれ、体に異常がないかどうか」「う、うん、そこにゆっくり寝かせて」静希が戻ってくるのに合わせて石動の診断ができるように簡易式のベッドを用意していた鏡花と明利、即座に診断を始めるべく明利が石動の体に同調を始めた彼女の安否を気遣った班員の樹蔵や上村と下北が石動の元に駆け寄るが、とりあえず今のところ命に別状はないという事を知ったのか安堵の息をついていたようやく肩の荷が下りたと静希は座り込んで大きく息をつくが、肩の荷が下りたにしてはやたらと気が重かった何せ周囲のクラスメートが自分の方を注視しているのだ、どんな戦いをすればあんな状況になるのか、どんな戦いをしたのか、どうやって勝ったのか、恐らく彼らが聞きたいのはそんなところだろうだが静希は答えるつもりはなかった、石動の名誉のために、何より静希自身の都合のために手品のタネを明かすマジシャンはいない、質問されたからといって答えてやるほど静希は親切でもバカでもないのだ「お疲れさん、あんなに血が出てて大丈夫なのか?」「あれは石動が持ってきた輸血パックの血だよ、あいつ自身はほとんど無傷だ・・・と思う」未だ確証が持てないために静希は明利の診察結果を待つしかできないが、大事には至っていないと思いたいそんな中鏡花が静希の方に近づいてきて眉間にしわを寄せながら小声で静希に話しかける「・・・あんた、ほんの少しだけどメフィを外に出したでしょ」「・・・何でわかった?」森林地帯の中であれば外部から見られることはまずないだろうと思いメフィを外に出したのだが、まさか鏡花に気付かれているとは思わなかった「気づいたのは私じゃないわ、明利がメフィの気配を感じ取ったのよ」その言葉に静希は半ば納得する静希程ではないにせよ明利は静希の家によく遊びに来る、その過程で人外の気配に敏感になっていてもおかしくない明利にも人外を感知するだけの独特の察知能力が備わってきたのだ、喜ぶべきか悲しむべきかは悩むところではあるが、今気にするべきはそこではない「・・・なるほど、他の奴は?メフィに気付いたやつはいるか?」「今のところはいないみたいよ?特に騒いでる人もいなかったし、一番の懸念だった樹蔵君は石動さんの状況を実況してたから」その言葉に静希は安堵する、それ以外に手がなかったとはいえ一瞬でもメフィを外に出すのは静希としても一種の賭けだったのだ後でもしかしたら城島にお叱りを受けるかもしれないが、その程度であれば必要経費だと言えるだろう「でもメフィを出して一体何をしたわけ?まさかとは思うけどあいつの能力に頼ったわけじゃないわよね?」「当たり前だ、ちょっとジョーカーを使っただけだ、奇形が少し進んだけど、これやるにはあいつの協力が不可欠だからな」ジョーカー静希の言葉の中のそれの意味を知っている鏡花は静希の右手に視線を移した肌を偽装するためのスキンを付けているため、一見すると特に何も変わった様子は無いように見える、だがその奇形が進行しているのは間違いないだろう逆に言えばそれだけ静希は本気で事に当たったのだ、自分の身を削ってでも石動を余計な危険に晒すわけにはいかなかったのだろう「今回は運が良かったけど、森林とかの中でもメフィを出すのはやめておきなさい、どこに人の目があるかわからないんだから」「わかってる、注意するよ」鏡花の言葉を素直に受け止め、静希は苦笑する、確かに授業中にメフィを外に出したのはさすがに大胆すぎたかと反省しているのだ明利がメフィの、悪魔の気配を感じ取れるようになっていたことには驚きだった、だが静希が過ごした時間を考えれば不思議はないそう考えると雪奈ももしかしたら気配で人外を察知できるようになっているかもしれない明利よりもずっと多く静希の家にいる機会があるのだ、今度試してみるのもいいかもしれない、そんなことを考えていると集中していた明利が一息ついて静希の方に駆け寄ってきた「静希君、診断終わったよ、とりあえずほぼ外傷は無し、頭を強く打ってたけど、これくらいならすぐに治るよ」「そうか・・・脳に異常とかは?」「脳の中の毛細血管も切れてないし、脳震盪もあまり大したことなかったから大丈夫、たぶんあと数分もすれば目を覚ますんじゃないかな」明利の診断に静希はようやく完全に安心したのか、大きく息をつくこれだから石動相手に切り札を使いたくなかったのだ、こんなに肝が冷えたのはいつ以来だろうか、二度とこんな真似はしたくないものである少なくとも、もし仮に石動に切り札との再戦を持ちかけられても絶対に断るつもりだったなにせ次に作る高速弾は今回よりも長く時間と手間をかける予定なのだ、もしそんなものを石動に向けたらまず間違いなく大惨事を引き起こす二度は無いそう言う意味では今回のこの結果は両者にとっていい経験になっただろうと静希は少し前向きにとらえることにした「・・・う・・・ぁ・・・?」「・・・起きたか、気分はどうだ?」石動が起きたのは明利の診断通り数分後の事だったゆっくりと体を起こし周囲の状況を確認するべくあたりに視線を移すと石動はまだ意識が完全に覚醒していないのかふらふらしながら静希の方を確認した自分の周りにクラスメートが集まっているという事と、自分が気を失っていたという事から状況を把握したのか、仮面に手を当てて呻きだす「・・・そうか・・・私は・・・」「死んだかと思って肝が冷えたぞ、もう二度とお前には切り札は使わないからな」自分の体が血みどろになっているのも確認し、悪いことをしただろうかと石動は反省しているのか頭を垂れたままになっているそして自分の体が血まみれになっているという状況と、自分の体に傷がないことを再確認したのか、勢いよく立ち上がり周囲を見渡して何かを探しているようだった「石動さん、いきなり立ったらダメだよ、まだ安静にしてないと」「すまん、それより先に・・・五十嵐、私が使っていた血はどうなった!?」自分の身の安全よりも先に血の確認を優先するというのはどういう事なのだろうかと静希は首を傾げながら森の中を見る「お前が気絶したと同時に森の中にぶちまけられてたけど?全部綺麗に液状化してたな」静希の言葉に石動はめまいを起こしながらその場に座り込んでしまう、気分でも悪くなったのだろうかと明利が急いで同調を始めるが、どうやら体調が変化したというわけではないようだった「あぁ・・・あぁぁぁぁ・・・!あれだけの血を貯蔵するのに・・・いったいどれだけ時間がかかったと・・・あぁぁぁぁぁあぁぁ・・・!」「・・・あぁ・・・なるほど、そういう事か」石動の能力は血液を媒体にする、自分以外の血でもその効力を発揮するが自分自身の血液の方が効果が高いらしい、大量の血液に能力を使えばその分出力が高くなるが人間一人にある血液量は個人によって決まっているその為石動はコツコツと血を定期的に貯蓄していたのだろう、病院でやったのか個人でやったのかは不明だが、あれだけの血をためるのにはかなり時間がかかっただろうことが容易に想像できたそう考えるともう少し状況を変えてやった方が良かったかもしれないなと同情しながら静希はどう反応したものか困ってしまっていた「えと・・・その・・・悪かったな、血を無駄にしちゃって」「・・・いや、五十嵐は悪くない・・・お前の実力を甘く見過ぎていた私の未熟さが招いたことだ・・・!」拳を握りしめて地面を叩くその姿は、静希も、そして班員である樹蔵たちも初めて見る姿だった今まで敗北と言うものを味わったことのない石動が初めて敗北を、いや正確に言うなら初めて敗北感を味わっているというべきだろうこの場にいる誰よりも石動自身が、静希に負けたという事実を認め、それを悔やんでいるのだそして何より石動が悔やんでいるのは自らが負けたことだけではなかった「私はいつの間にか、お前が私よりも下であると当たり前のように決めつけてしまっていた・・・自分でお前は強いなどといっておきながら・・・これ程情けないことはない・・・!」負けるはずがない、静希相手なのだから石動の中でそんな感情があったのだろう、だからこそ血の回収という事に気を遣う事すらしなかった万全を期すならば、気絶したことを考慮して策を講じておくものだ、だが石動はそれをしなかった慢心石動が今回のことで最も悔やみ、恥じているのは自らの中に強さに溺れる心があったという事実そのものだった負けたことよりも自分が認めていた静希の事を気づかないうちに貶めていたという事実そのものの方が彼女としては悔いるべき点だというのは、何とも『らしい』というべきだろうか生真面目というかなんというか、石動という人間が浮き彫りになる光景である「まぁあれだ、明利に頼んで血の生産とかが楽になるように調整してもらえって、さすがにあの量を取り戻すのは時間がかかるだろうけど、ないよりはましだろ」さすがにこの状態のままにしておくのはまずいなと思い、静希は半ば強引に話題を失った血液の方向へと戻すことにした実際問題能力を使う上で必要な血液を大量に失ったというのは石動にとって痛手以外の何物でもない、あらかじめ準備を必要とする静希としても、この光景を見て何も思わないわけでもないのだ「・・・そう・・・だな・・・幹原、手伝ってくれるか・・・?」「うん、私でよければ、食材とか体調とかの管理は任せてよ」医師の資格を取得できる条件がすでに揃っている明利の協力があれば百人力だろう、人間が血液を生産するにあたって必要な栄養素や、生産に必要な臓器の機能の強化も明利ならば可能だ当然、あれだけの量をまた作り出すとなると相当な時間が必要になるだろう、だが今までよりは多少早くなることは確かである明らかに落ち込んでいる石動も、少しだけ気が紛れたのか、うつむくことを止めてその場に座り込む、さすがにまだ立つのはつらいようで、深呼吸をしながら先程の戦闘を思い出しているようだった誤字報告が20件分溜まったのでプラス月曜日なので六回分投稿誤字報告四天王みたいなのがなんとなく出来上がっているのが微妙に面白いこれからもお楽しみいただければ幸いです

その日の授業を境に、静希がエルフである石動を倒したという噂は学年中に響き渡った先日の明利の試験合格と同じ、あるいはそれ以上の衝撃を伴ったその情報に、ただの噂ではないか、あるいは嘘ではないかと他のクラスの人間までもが静希達のクラスへやってきて本人たちに事実確認に来たほどである静希はあんなもの負けに等しいと顔をしかめていたが、石動ははっきりと自分は五十嵐に負けたのだと明言していたその結果、静希が石動に勝ったというのは単なるうわさでも憶測でもなく、明確な事実として学年に知れ渡ることになる学年の中で五本指に入るほどの劣等生だった静希が、学年で五本指に入るほどの優等生である石動に勝利したこの事実に他の生徒たちも触発されたのか、一層訓練に励むものが出始めるその中にもちろん石動の姿もあった静希に負けたという事実を認め、自らの中にまだまだ弱さがあるという事を自覚したのか、より一層強くなるために研鑽を重ねているようだったそんな中には石動に勝負を挑む生徒もおり、その全てがあっさりと返り討ちにあっている姿を時折見かけることができた「・・・これもお前の策の内か?」「さぁ?でもあんたの評価は確かに上がったでしょ?」石動だけではない学年全体の意識の向上、さらに静希でも石動に勝てたのだから自分でも勝てるかもしれないと勝負を挑む人間を増加させる結果、その全てを返り討ちにし静希の評価をさらに上げることになる今まで静希が劣等生というレッテルを甘んじて受け入れていたためか、静希自身に勝負を挑むような人間はほとんどいなかったもちろんゼロだったわけではないが、それら全て静希は断っている、そもそも戦う理由もなければ自分の手の内を見せること自体好きではないのだしかも静希に戦いを挑む人間がいたのも最初だけ、途中からは静希ではなく石動に勝利しなければ意味がないと悟ったのか静希に戦いを挑むものは今やいなくなっていた結果石動は頻繁に同級生から勝負を挑まれ、それらすべてを撃退するという作業にも近い毎日を送っているそしてそれをマネジメントしているのは意外にも明利だったその日の体調と血液の状態を管理し、どれくらいの運動であれば問題ないか、そして万が一負傷した際にはその応急処置などやることは多いが、彼女は彼女でこの状況を楽しんでいるようだった自分の幼馴染が正当に評価され嬉しいというのもあるのだろう、そして何より石動に頼られるという状況が彼女自身きらいではないようだったそして石動の戦闘には必ず陽太が監視の目的で同行した、これは鏡花がそうするように指示したのだ陽太は戦闘能力こそ高いが、その技術は石動に比べればまだまだ見劣りする点が多いその為、鏡花は陽太に見稽古をするように命じたのだ実戦に限りなく近い訓練の中で、前衛の手本ともいうべき石動の戦いを見て少しでも何か掴んで来れば儲けものである、きっと今回のことは陽太にも成長を促すことになるだろうそしてこの状況に城島もある種嬉しさを感じているのか、今回の騒動は黙認するようだった、生徒たちの士気が下がっているのなら問題だが、今は逆に士気が上がっている傾向にある静希の行動に多少のお咎めはあったものの、強い罰などは課せられることなく日々を過ごすことができていた「そう言えばこの前の東雲姉妹の誕生日、結局静希は何渡したの?私はちょっとした化粧道具だったけど」「お前小学生に化粧道具渡すなよ・・・俺はぬいぐるみみたいな抱き枕にした、案外喜んでくれてたぞ」先日石動の試合の後にあった東雲姉妹の誕生日に、静希はしっかりと誕生日プレゼントを持って行ったほとんどサプライズのつもりだったが、二人の反応から察するに石動が情報を漏らしてしまっていたのだろう石動を通して東雲姉妹に隠し事をするのは難しそうだなと把握したが、静希の誕生日プレゼントにあの二人はかなり喜んでいた石動の話ではあれから毎日のようにそのぬいぐるみ抱き枕を抱いて寝ているらしい、そう言うところは年相応の女の子だ「あれからもう一年経つのね、どうよ昔と今の評価の違いは」「・・・まぁ悪くはないけど、少し嫌な感じだな、どこにいても見られてる気がするよ」学年のほとんどが知り合いという事もあってどこに行っても静希のことを知っており、どこに行っても好奇の目を向けられる評価が変わって自分が高くみられることは決して悪いとは思わないのだがあの視線だけはどうにも慣れない今までそれに晒され続けていた鏡花からすればもはやそよ風に等しいかもしれないが、ずっと劣等生扱いされてきた静希にとっては僅かながらに不快感さえ覚えるものだった「まぁ今のうちに慣れておきなさい、これはただの勘だけど、あんたは多分もっと注目されることになるだろうから」「すごい不吉な勘だな・・・善処するよ」そう話しているとちょうど石動の模擬戦が終わったのか、陽太と明利が静希と鏡花の元へと戻ってくる高い評価など受けてもしょうがない、そんなものがあっても邪魔なだけそんな風に思っていた静希だが、周りから高い評価を受けて初めて分かったことがあるこういうのも悪くない劣等生に甘んじていた静希が、初めて高い評価を受け、同級生から羨望のまなざしを向けられて思った、素直な感想の中の一つだこれからもっと注目されるだろう鏡花の言った言葉を反芻しながら、静希は苦笑しながら二人を迎える今後自分がどれほどの人に注目されることになるのか、僅かな不安と共に静希はゆっくりと変わっていく誤字報告を20件分受けたので五回分投稿・・・その一回目です話をまたいだので仕方ないですねこれからもお楽しみいただければ幸いです

一年生の初めての校外実習が行われている頃、静希達は大きく欠伸をしていた教室の半分は空席、なにせ二年生の半分が一年生の実習の補佐として行動しているのだその為補佐役を命じられていない静希達のような学生はいつも通りの週末の授業を行っているのだが、ほとんどの生徒がいない中新しい単元に進むわけにもいかず復習という形で授業を受け、半分近い授業が訓練に費やされることになった金土日と三日間で行われる実習、その初日である今日に行動をしている学生たちが多い中こうしてのんびりとしている静希達は緊張感の欠片もなく授業を受けている時折教師がそんな緊張感のない様子を見て注意するのだが、自分たちの実習にはまだまだ時間がかかるという事もあって今から高い緊張感と集中を維持しろという方が無理なのも理解しているのだろう、強く指導するという事は無かった一年前、丁度自分たちが緊張しながら行った初めての校外実習、今思えばあの日あの時メフィに出会ってから静希の奇妙な人外への出会いが始まったのだそこまで考えてそう言えばメフィと出会ってもうすぐ一年だなと思い至り静希はトランプの中のメフィに意識を向ける『なぁメフィ、お前今なんか欲しいものとかあるか?』『はぁ!?シ、シズキ?一体どういう風の吹き回し?』唐突に話しかけられただけではなく、いきなり何か欲しいものがないかと聞いてきたことに驚きを隠せなかったのか、動揺しているのが声からでもはっきりわかるそんなにおかしなことを言っただろうかと静希が内心首をかしげる中、それを聞いていたオルビアがなるほどと呟く『メフィストフェレス、マスターは貴女と初めて会った日を祝おうとしているのではないでしょうか?そろそろ出会って一年になるのでしょう?』話にしか聞いていないが初めての実習の時に二人が出会ったという事は知っているオルビアがそう言うと、静希もそういう事だと呟くめでたいかどうかはさておいて、一年という節目を迎えたことに対して何かしら催しをしても罰は当たらない、それがたとえ静希の人外との出会いを元にしたものであったとしても『お前と会ってもう一年だしさ、なんかお祝いとかしようと思ったんだけど、嫌か?』『嫌じゃないけど・・・それだと私もなんかシズキにしてあげなきゃいけないじゃない?それだと不公平かなって・・・』契約を重んじる悪魔にとって、それがたとえ好意からの代物だとしても何かを無償で受け取るというのは憚られるのだろう所謂ただほど高いものはないという精神に近い物があるもちろん彼女としても嬉しいようだったが、静希が何かをくれるというのなら自分としても何かする必要があるのではと感じるのもまた必然だった、受け取るだけ受け取って素知らぬ顔ができる程彼女は薄情ではないのだ『お前がそんなことを気にするとはなぁ・・・でもせっかくだしなんかなぁ・・・』出会って一年、たったそれだけの間にあったことは数知れないし何より静希としても忘れるわけにはいかないものばかりだそれらを乗り越えてきた仲として何かしらの形を残したいと思っていたのだが、メフィとしてはただでそれを受け取るというのはいやなようだった対等契約、静希とメフィが交わしている契約であり、両者は互いに対等であり、互いを所有し所有される関係にある一方的な命令もなければ、どちらかが納得のいかない条件を作るのはご法度であるという暗黙の了解が敷かれているだからこそ特別な何かをしようとしている中、メフィだけ何もしないというのは彼女の悪魔としての矜持が許さないのだ『だがメフィストフェレスよ、せっかくシズキが祝い事をしてくれるというのにそれを無碍にするというのはどうなのだ?』『わかってるわよ、私だって嬉しいんだから・・・そうね・・・ちょっと時間頂戴、何かできないか考えてみる』『そうか?じゃあまぁ考えておいてくれ』静希とメフィが初めて会ったのは日曜日だった、日にち的にはずれがあるがその日に祝うのが丁度いいだろうそれまでにメフィが何かしらの代価を思いつけばいいのだがそんな静希のトランプとの会話が終わると、明利が静希の方に視線を向けているのに気付く、どうしたのかと思っていると視線を向けているのは明利だけではなく鏡花もだった「あんた何話してたわけ?なんか企みごと?」静希がトランプの中の人外と話すときの癖を知っている鏡花と明利はどうやらそれを見抜いていたのだろう、また厄介ごとなのではと危惧している鏡花と純粋に何を話しているのだろうと気にしている明利、二人の態度の違いに苦笑しながら静希はどう答えたものかと頭をひねる「いやたいしたことじゃない、あいつと会ってもうすぐ一年だろ?だから何かしらお祝いでもしようかと思ってな」静希の言葉にそう言えばそうねと鏡花が考えだし、もう一年経つんだねと明利が感慨深くうなずく二人としてもなかなかに思い入れ深い一年だっただろう、そして面倒事の始まりともいうべきメフィとの出会いを祝うという事に二人は特に反対するわけではないようだった「あんたってそう言うところマメよね、誕生日もしっかり覚えてるし」「まぁな、こと管理とかに置いては一家言持ちだ」収納系統の能力者は基本的に自らの持っているものを管理することが大前提であり、もっとも重要なことでもある、そう言う意味では把握能力に関しては他の人間よりも優れている点が多いのだ静希の収納能力は弱いとはいえ入れているものを把握する力は必ず必要なものの一つだ、昔から培ってきた静希固有の特性ともいえるだろう「でもそうね・・・お祝いかぁ・・・あいつって何あげると喜ぶのよ」「・・・さぁ?」首を傾げた静希に鏡花は肩を落とす、毎日のように一緒にいてもう暮らし始めて一年になるというのにメフィの好きなものというのは静希も知らない今メフィがはまっているものはゲームなどの娯楽だが、それは好きなものとしてカウントされるのだろうかと思えてしまうのだメフィは飽きっぽい、いつかゲームにも飽きる日が来るだろう、その為何か別なものの方が良いのではないかと思えるのだ「さぁって・・・あんたが知らないんじゃ何も用意しようがないわよ?」「いやだってあいつ飽きっぽいし・・・ただずっと使えるような物よりは一回こっきりのなんか消耗品的な奴の方がいい気がするんだよな・・・」「なるほどね、それじゃあまたケーキでも作ろうかな、それともたまには和菓子の方がいいかな?」消耗品でメフィが喜びそうなものというとやはり甘いものという印象が強いため、洋菓子か和菓子のどちらかに二極する、明利としてはどちらも作れるためにそこまで苦労はしないのだが結局食べるのは静希だ、あまり甘すぎないものが好まれるメフィが自分自身で飲んだり食べたりできるなら話が早かったのだが、送られるものはすべて静希の味覚を通じて味わうのだ、いや正確には別に静希でなくともよいのだがメフィは静希の味覚を使いたがるその為メフィが代価として食べ物を求めた時は必然的に静希がそれを食すことになるのだ一年前に比べ体重が増えたかもと思うこともある、その分運動量は増やしているが、最近体重を測っていないためにどうなっているかは全く分からないともあれ、メフィに与えるものが単なる食べ物で、それなりに豪華なものだと静希が食べきれない可能性があるのだその為ある程度は物品であるほうが好ましい「でもあいつって最近はゲームもはまってるわよね?今やってるのは戦略ゲームだっけ?」「あれを戦略ゲームといっていいのかは微妙だけどな・・・しかもネトゲだ、課金しないで時間だけを消費することに楽しみを見出したらしい」人間と違って時間はいくらでもかけられる悪魔からしたら時間をかければかける程優位になるようなゲームは彼女にとって得意分野なのだもちろん時間をかければその分飽きるのも早いかもしれないが、そこは彼女の気分次第である「ていうかあんたからあげるだけ?あいつからはなんかないの?」「さぁな、なんか考えておくとは言ってた、なんか一方的にもらうのは嫌らしい」悪魔としての契約云々の話は鏡花にとっては全く分からないためにそう言うものなのかしらと首をかしげている普段のメフィの言動を考えると貰えるものは貰っておこうと言いそうなものだが、静希に対しての事だけは特殊なのだろう、そう無理矢理に納得することにした「一年経過してあいつとの生活はなんか変わったわけ?なんか昔と全然変わってない気がするけど」「そうだな、基本あいつはだらけてばかりだぞ、まぁ娯楽が増えている気がするけどな」メフィの名を口にしないでの会話も成り立つ中、静希はメフィと出会ってからの生活を思い返していた自由気ままに過ごすメフィは思えば確かに何も変わっていない、テレビを見てネットをして、ゲームをして、そして今はようやく静希の手札の一つを作るのを手伝うようになったニート悪魔などという表現が似合う彼女は昔から変わっていない、というより静希よりも何倍も生きてきているのだ、たった一年くらいで変わるとも思えない現代において娯楽の数は昔と比べると何十倍にも増えている、ジャンル的にはそこまででもないが、一つのジャンルにおいてかなり細分化されており時間がいくらあってもやりつくすことができないほどだメフィにとっては飽きることない堕落の時間を味わえることになる、それが良いことなのかどうかはさておいて、静希としてもむやみに暴れないのであれば良いと思っていた「途中からあんたあいつのことを危険視しなくなったしね、それだけ信頼してるってこと?」「ん・・・まぁ信頼っていうのかは微妙だけど、そこまで危険な奴じゃないってのはわかったし、手間のかかる奴だってのは今も思うけど・・・」静希としてもメフィのことを素直に褒めたり評価するのは憚られるのか、難しそうな表情をしながら頭をひねっている鏡花の言うように、いつからか静希はメフィのことをそこまで危険視しなくなった以前は一緒にいるだけで心臓を握られているような圧迫感を味わっていたのだが、途中から慣れたのかその感覚がなくなったのだそれからと言うもの、メフィの存在は悪魔という圧倒的強者から面倒くさいもう一人の姉のような存在に近くなった身近に残念な姉貴分がいたからか、そう言った面倒くさい女性の扱いは手慣れていたためにいつの間にかメフィの扱いが悪魔から人のそれに近づいていったのだそしてそんな存在になったからこそ、誰かにメフィのことを伝える時に良いイメージを伝えにくかった自分が思っている以上にメフィはダメな部分というか、適当なところが多すぎる無論悪魔として契約を果たすときにはきっちりと決めるのだが、私生活がだらしなさすぎるのだ、そう言う二面性を知ってしまっているだけに静希としては素直に褒めにくい仮にいいところが浮かんできても、でも、だけどという否定が思い浮かぶのだ恐れるべき悪魔をそんな風に思ってしまっている時点で自分もずいぶん毒されてきているなと思い返し、静希は額に手を当ててため息をついてしまう「なるほどねぇ・・・だからメフィはあぁして頭をひねってるんだ」その日の授業を終え帰宅しいつものように人外たちが飛び出した後で、いつものように雪奈が静希の家にやってくると珍しい光景を見ることができた普段ならゲームやテレビに夢中になっているメフィは、何故か宙に浮きながら何か考え事をしているのだあまり見ない光景に雪奈は不思議がっていたが静希の説明に納得した様で茶を飲みながら懐かしむように目を細めた「そうか・・・メフィに会ってからもう一年かぁ・・・早いもんだなぁ」「本当ですよね、雪奈さん、お茶お代わりどうぞ」雪奈と同じく当然のように静希の家にいる明利も一年という時間の流れをしみじみと感じているのか、湯呑と急須を持った状態で小さく息をついているまだ二十にもなっていないのにこんなに時間の流れの早さを実感しなくてもよいのではないかと思えるが、そこはスルーしておくことにしよう「そういやメフィに会ったのが一年ってことはわんちゃん神様と会ってからももうすぐ一年になるわけか」「そうなるな、といってもメフィストフェレスより数日のずれがあるが」邪薙に初めて会ったのはエルフの村での騒ぎが発端だった、実習が終わって一週間経ったかどうか位の時期だったと記憶している「オルビアちゃんは海外交流の時だっけ?五月くらい?」「はい、ですので私はさらに一か月ほどのずれがありますね」オルビアと会ったのは五月の頭、ゴールデンウィークの最中にあった海外交流会の時だった、向こうの能力者専門学校の生徒の案内でクルージングをしていた際に嵐に巻き込まれ遭難、孤島に流れ着き、そこで出会った思えば途方もないことをしてきているなと思い返しながら静希はよく生きていられたものだと感慨深くなってしまう「この家が騒がしくなってからもう一年経つんだね、もうこの感じに慣れちゃったけど」「そうですね、皆さんがいないとなんかちょっと寂しいかも」二人の言うように、静希の家には人外が三人もいる、一年前までは静希の一人暮らしだったのにいつの間にか増えに増えて四人と一匹の一世帯家族のようになってしまっていたそこに普段からやってくる明利や雪奈を加えるとさらに人数は増える合計六人と一匹、実習などで陽太と鏡花がやってくれば八人と一匹になる、こんなに大量の人数を入れたことなど高校になるまではなかったことだこの雑多な状況に慣れてしまったため、確かにいきなり一人になると寂しさにも似たものを感じるかもしれない「ですが明利様、いずれマスターとお二方が婚姻を結ばれるのであれば生まれてくるお子方のためにも、私どもは身をひそめることになると思われます」「・・・そこまで先のことを考えなくても・・・でも・・・そうなる・・・のかな」何時か生まれる子供、まだ結婚もしていないのにそんなことを気にするのもどうかと思うのだが、実際生まれてくる子供にとって人外たちは刺激が強すぎるこの中で唯一まともなのはオルビアと使い魔のフィアくらいのものだ、それでもオルビアはただの人にしか見えないために一緒に暮らすのであれば多少なりとも言い訳を考える必要があるだろう思えばそこまで先のことを考えたことがなかったために、今こうしているからこれからもこうしていられるという認識でいたが、実際はもっといろいろと考えるべきなのかもしれない「オルビアの意見には賛成だが、幼い時、そしてしっかりと成人した後ならば姿を現しても問題はないと思うぞ、我々は何も危害を加えるような存在ではないのだ、話せば理解することはできるだろう」人外の中で最も強面な神格が言うと如何せん説得力に欠けるが、邪薙の言うように静希の周りにいる人外は約一名を除き静希達に危害を加えたことなどは無いその為しっかりと教育した後であれば問題はないのではないかと思えるのだ「じゃあ赤ん坊のころまでなら大丈夫かな?会ってみても覚えることは無理だろうし」雪奈の言うように赤ん坊の頃であればだれに会っても覚えることなど無理だろう、記憶の片隅に残るかもしれないが、犬顔の大男に世話をされたなどといっても夢か幻でも見たのだろうと思われるのが関の山だ「なるほど、赤子は夜泣きが酷いと聞きます、そう言う時は我々が協力いたしましょう、子育てとは皆で協力し行うものであるとどこかの書物で読んだ記憶があります」「赤子の世話か・・・やったことなどはないがシズキ達の子ならば見てみたいな、しっかりと神として祝福でも授けてやろう」「あんたが子供の前に出たら間違いなく泣かれるわよ、そこは自重しなさいね」先程まで頭を悩ませていたメフィが一度考えることをあきらめたのか、ふわふわと宙に浮きながら静希の頭上にやってくる先程の会話も大まかにではあるものの聞いていたのだろう、ため息をつきながら苦笑していた「む・・・自分の顔については自覚している、だが女子供は犬が好きだろう、この顔でもさしたる問題はないと思えるが?」「図体がでかいってだけで圧迫感を与えるのよ、子供にとっては怖いでしょうよ・・・っていうかそんな先のことまで考えないでよ、このままだと子供の名前まで考えだしそうで嫌になるわ」メフィの言葉に話に夢中になっていたという事に気付き、明利達は苦笑してしまう、先の話をするというのは何でも言えるから面白いのだ、その分第三者から見ればみっともなく映ることもあるが、当事者からすればかなり真剣な内容であることも多い静希達の場合結構真面目な内容だっただけに夢中になってしまったのだ「そう言えばメフィ、静にあげるものは決まったわけ?」先程までずっと頭を抱えていたメフィがこちらにやってきたことで考えがまとまったのかと思ったのだが、メフィはため息をついて首を横に振る「ダメ、全然思いつかないわ、そもそも私がシズキにあげられるものって大体が行動なんだもの、物品をあげるって言っても私基本何も持ってないしさ」「あぁなるほどね、だったら静に何かしてあげればいいじゃん、今までしてこなかったような事」プレゼントやお祝いというと何かをあげるという行為であるという認識があったのか、物品を持っていないメフィにとっては何もあげられるものがないと思っていたようだが雪奈の言葉に再び悩み始める「なるほど、その手があったか・・・んんん・・・でも何をすれば・・・」メフィが悩みに悩んでいると、雪奈はいいことを思いついたのか宙に浮いているメフィを引っ張って耳打ちするその表情からあまりいいことではないような気がするのだが、それを聞き終えたメフィはそれいいわね、とかなり乗り気な様子だった一体どんな入れ知恵をしたのだろうかと静希と明利が顔を見合わせて首をかしげている中、メフィは行動を起こすべく部屋にあるものをいくつか漁りだす何を探しているのだろうかとのぞき込むと「ダメ!見ないで!これは内緒なの!」といって何も見せてくれなかったそしてメフィは静希達のいるリビングから静希の寝室へと向かっていった何をするつもりだろうかと心配になるが、とりあえず経過を見守るしかないようだった「いやぁ、我ながらなかなかいいアドバイスしたんじゃないかな?」「いったい何言ったんだよ、変な事じゃないだろうな?」「それは大丈夫、安心しなさいな」雪奈のアドバイスという事で静希からしたら不安しかないのだが、せっかくメフィが何かしらやる気になっているのだからそれを止めるのも忍びないと思い、とりあえずは放置しておくことにする本当に何を言ったのか、メフィがこもっている部屋から何やらものが落ちる音やら何かが破ける音が聞こえてくる今日自分はあの部屋で眠ることができるのだろうかと一抹の不安を抱きながら静希は非常に複雑な心境だった「メフィがあそこまで考えてるんならわんちゃん神様やオルビアちゃんも何かしらお返しを考えないといけないかな?せっかくだし」「ん?もしや我らの一年の節目にも何か祝い事をするつもりか?」「あー・・・まぁメフィだけやるってんじゃ不公平だし、やるつもりではいたけど、お前らはお返しとかは別にいいぞ?あいつがあそこまで拘ってるのは契約に引っかかるからだし」お前らとは別にそこまで厳密な契約はしてないしなと静希が付け足すが、邪薙とオルビアとしてはメフィだけお返しをするのに自分たちだけもらうだけというのは承服しかねるのか、腕組みをして悩み始めてしまった「マスターにお仕えしている身としては祝っていただけるだけで身に余る光栄ですが・・・確かに私からも何かお返しをするべきかもわかりませんね、どうしたものか・・・」「ふむ・・・こちらは一つできそうなことがあるからそれで手を打つとしよう、オルビア、もし悩むのであればお前もユキナに助言を乞うべきではないか?」邪薙の言葉にオルビアの視線が雪奈の方へと向く、だがその視線を静希が遮った「雪姉のアドバイスはやめておけ、たぶんだけどろくなことにならない」「そ・・・そんな・・・では私は一体どうすれば・・・!」雪奈からのアドバイスは直情的でなおかつ短絡的ではあるが、目的に対しての最短距離を行く内容が多い、それを採用するかどうかはさておいて聞いておいて損はないと思っていたのだだが自らの主である静希にそれを遮られたせいでオルビアは自分で考えなくてはならないのではないかという強烈なプレッシャーをかけられることになっていた「オルビアさん、なんだったら私も一緒に考えるよ?」「め、明利様・・・!ありがとうございます、これほど心強い友軍はありません!」オルビアからしたら明利が天から伸びる救いの手のように見えただろう、明利は雪奈と違って常識的かつ現実的なアドバイスができる人間だ、多少消極的なのは否めないがオルビアにとっては最も適したアドバイザーとなるだろう静希に遮られてしまった雪奈は不満なようで先程から静希の背後でずっとブーイングをしている、自分がどれだけ危険な思想を叩き付けるかがわかっていないようだった以前の明利の時もそうだったが、雪奈の意見は本当に最短距離を走りすぎるのだ、その結果オルビアが暴走するようなことがあったら目も当てられない結果的に雪奈のアドバイスが良い方向に働くこともあるが、今までがそうだったからといってこれからもそうであるとは思えない所謂諸刃の剣のようなものだ、成功すれば得られるものは大きいが失敗すれば失うものも多いただのお祝いにそんな御大層なものを求めていないのだ、本当にささやかなものでいいのだ、邪薙やオルビアはそうでなくても毎日のように静希の生活に貢献してくれているのだから「マスター、待っていてください、きっとマスターのご期待に添えることのできるものを用意してご覧に入れます!」「あー・・・うん、期待してる」静希の気持ちとは裏腹にオルビアはやる気満々だ、一体どんなものを持ってくるのか想像もできないが、好きにやらせておいた方がいいだろうせっかくやる気になっているのだ、静希としてもそれを止めるつもりはなかった誤字報告を20件分受けたので五回分投稿、残りの四回分ですこれで九月は最後、明日から新しいルールでの投稿スタートですもし忘れたらごめんなさいこれからもお楽しみいただければ幸いです

静希や人外たちがそんな会話をした日の夜、静希の携帯に電話が入った相手は同じ悪魔の契約者であるエドモンドからだった「あぁ?お前そんなこと調べてたのかよ」『あぁ、以前君から聞いてからずっと気になっていてね、自分なりに調べていたんだ』エドとの会話に出てきたのは以前から静希の実習に関わってきた奇形種がらみの事件の事だった世界各地の奇形関係の研究者が誘拐される事件、そして同じく世界各地の動物園での奇形化事件、エドなりに気になることがあったのだろう、自分のコネを使っていくつか調べ物をしているようだった『誘拐の方は時間が空きすぎていてほとんどわからなかったんだけど、奇形化の方は例の成分が発見されているからね、その方向から調べることにしたんだ』「そう言えばこっちの方でも奇形化した動物には幾つか気になる成分があるって言ってたけど・・・」それは明利が発見したもので、今も調査が進んでいるらしい、城島から新しい情報が入らないために何とも言えないが話が前に進んでいればよいのだがと思ってしまう『僕の父の会社によく仕事を依頼する薬品会社が、丁度その成分の解析をしているところでね、ほんの少しだけど面白い話が聞けたんだ』面白い話一体どういった内容なのかはまだわからないが、実際に調査をしている薬品会社に知り合いがいるというのは大きい、こういう時に人脈というのは必要なのだなと静希はしみじみとエドの人脈の広さに感謝していた『まだ検証段階で確定ではないけれど、その成分を摂取した動物・・・いやどうやら植物にもなんだけど、ある効果を促進させるらしいんだ』「ある効果・・・?ひょっとして魔素の吸引か?」静希の言葉にエドはザッツライトと軽く笑った後でいやぁシズキは話が早くて助かるよと付け足すエドとしてはちょっとしたサプライズを含めたつもりだったのだろうが、静希相手では、いや先の奇形化騒ぎに関わったものからすれば十分予測できることである『話を続けるよ、どうやらそれを取り込むと、体内に魔素を取り込もうとする動きを活発化させるらしいんだ、無論個体差があるらしいけど・・・そしてもう一つ、むしろこっちの方が本命って言った方がいいかもね』魔素吸引までは静希も予想できたが、そこから先の効果となると流石の静希も不明な点が多い疑問点が多すぎてどれが本命なのかを把握できないのだ、そしてそれをエドは知っている「その本命とやらは、一体どういう効果なんだ?」『まぁまぁそう焦らないでくれ、結論から言えば奇形部位をある程度コントロールできる効果があるようだ』その言葉に静希は頭の中で幾多もの可能性を模索する、奇形部位をコントロールすることができる、もしそんなことがあるなら、あり得るならどんなことが引き起こされるか「それはつまり、奇形化後の生存率が向上するってことか」『・・・やっぱりシズキは話が早くて助かるよ、そう、これも確定ではないんだけれど、ほとんどの動植物は生命活動に支障がない部位に奇形化が現れていた、たぶんだけど魔素の動きを何らかの形で誘導するような効果があるのかもしれないね』その言葉に、静希は自分の右手に視線を向ける奇形化とはつまり、体の許容量を超えた魔素を注入することで発生するリバウンドのようなものだ、静希の場合はメフィの協力により右腕に魔素を集中して注入したために右手が奇形化しただが無理やり奇形化させた場合、人外の協力なしに過剰な魔素を入れた場合、そうはいかない奇形化は良くも悪くも生き物としての本来の動作をしなくなる可能性があるのだそこでまず問題なのは、体を実際に動かしている臓器である心臓、消化器、呼吸器、生きるために必要な臓器が体の中にはつまっている、もしその部位が奇形化したら、例えば心臓が奇形化し、普段と同じように脈を打たなくなったら、それだけでその生物は死に至るだろうだが、静希がメフィにそうしてもらったように魔素の動きをある程度コントロールできれば、生命維持に支障のない部位に奇形化を施せることになる思えば奇形化騒ぎがあった時、大量の動物たちが奇形化した、それこそ九割近い動物が奇形化したのだ、なのに奇形化した結果死亡した動物はほとんどいなかった無理やり奇形化させればその分体には無理がかかる、あれだけ大量の動物がいて生命維持に支障がある部位が奇形化した動物が一匹もいないというのは明らかに異常ではないのだろうか静希はその部門の専門家ではないから詳しいことは言えない、だがもし奇形化が体の部位をランダムに奇形化するのだとしたら、内臓器が奇形化しない確率は一体どれほどだろうかそう考えると、エドの言うように奇形部位をある程度コントロールできるというのも頷ける話である「エド一つ確認したい、このことはどれくらいの人間が知ってるんだ?」『どれくらいというのは僕も把握していないけれど、少なくとも今回のことに関わってる研究機関はある程度察知していると思うよ、今はむしろそれに御執心って感じだったね』恐らくはその知人とやらの反応を見て感じたことだったのだろう、あの反応を起こすことができるという成分を解析し、利用できないかと研究者としての本能がうずいている頃だエドもかつては研究者であったためにそれが理解できるのだろう、最も今の彼がどのような感情を抱いているのかは不明だが『そうそう、面白い話はもう一つあるんだ』「まだあるのか、それも奇形関係の話か?」先程から話の内容をすべてメモしていると、エドはどうだろうねと少しだけ迷っているようだった、迷っているというより確証がもてていないと表現する方が正しいだろうか不確定な情報を静希に伝えるべきか否か迷っているようだったが、決心したのか声を小さくして静希に話しかける『実は、君から前に起きた誘拐と奇形化事件の二つの事件を聞いたときにちょっとだけ気になることを思い出したんだ、これはあくまで話半分に聞いてくれ、僕もまだ確証がないんだ』「・・・わかった、続けてくれ」話半分、恐らくエドもまだ事実を疑っているのだろう、どちらかといえば仮定の話になりそうだ、メモに以降確証なしという一文を書き足した後で耳を傾ける『さっき話した企業とは別の企業なんだけど、ちょっと・・・その・・・行き先が不明な金が出ているんだ、しかも大量に』「・・・それって結構な問題じゃないのか?横領とかそう言うのとかってことだろ?普通に犯罪じゃ・・・」静希は経営のことなどはよくわからないが、行先が不明な金というのは一円だって出てはいけないものではないのだろうかという認識があるそれだけ不透明な部分があるという事だし、もしそれが株式で成り立つ会社なら出資者をだましているようなものだ、普通の会社ならあり得ない『うん、それがただの横領なら特に気にしなかったんだけどね、その時期が問題なんだ、具体的には誘拐事件の一週間程前』「・・・ただの偶然じゃないのか?不明金が出たってだけじゃ」静希の言葉を遮るようにエドはいいやそれだけじゃないんだと付け足して少し声を荒げた『その不明金は一時的なものじゃなく、継続的に行われてるんだ、その事件一週間前から、今に至るまで、しかもその額は奇形化事件を境に一気に減ってる・・・無関係だと思えるかい?』奇形研究者の誘拐事件の一週間前から発生した行方不明金、そして奇形化事件を境にその額が一気に減少した確かに、偶々で片付けるには少々偶然が過ぎる気がする、何か意図的なものを感じざるを得ない「・・・エド、お前の意見を聞きたい、お前はこの件、どう思ってるんだ?」『・・・僕個人の意見として、いや僕の仮説はこうだ、何者かが研究者を誘拐、そしてその研究者を一カ所に集めて安全に奇形化を誘発させるような薬を作らせ、その金をこの企業から出させていた、奇形化事件はその最終実験、そしてそれに成功したと判断した首謀者は研究費を削減・・・という感じかな』エドの仮定に静希は大まか同意見だった、どんな目的があったのかは知らないし、どのような理由があってこんなことをしているのかは不明だが、おおよそ静希が予想していた通りの仮説だ研究者を捕まえるだけで終わるはずがない、捕まえた後、何かを作らせるために誘拐したと考えるのが自然だだが研究というのは金がかかる、研究者の衣食住だけではなく、使用機器、使用薬品や材料、そしてそれらを運用できるだけの施設挙げればきりがないほどに用意するものが存在する、エドの言うように一気に額が減ったというのは奇形化騒ぎによってその成分がほぼ安全に奇形化を促すことができるという効果を有していると確定づけた可能性が高い『シズキ、君はどう思う?』「・・・ほとんど同意見だ、だけど一つ引っかかることがある、安全に奇形化を促すってことは、たぶん最終的にはそれを人間相手に使うってことだろ?俺らみたいに人外を連れていないと奇形化しても意味がない、どうしてそこまで奇形化に固執する?」以前日本ではエルフの協力の下人体の奇形化実験が行われた、その結果被験者は死亡している、普通の人間では人外の協力なしに奇形化は不可能であるという事実を突き付けられた瞬間だ静希はメフィという信頼できるパートナーがいるからまだいい、だが仮にただの人間が奇形化したところで能力を強化できる術は今のところ人外の協力を得る以外にはない研究者を拉致し、企業から金を出させ、あるいは自主的にだし、時間をかけて遂行するほとんどの人間にとって無駄とも思える行為をなぜそこまでの苦労をして行うのかが理解できないのだ『・・・そうか、シズキは日本のそれしか知らないんだったね、実は日本以外でも結構いろんな国で人体の奇形化の研究は行われているんだ、日本が失敗したことで及び腰になった国もいくつかあるけれどね』「・・・ってことは、まだ奇形化に対する執念がある奴ってのがいるってことか」『そこに付け込んだのか、それともそのものなのかは僕にもわからないけど、無関係ってことはまずないと思うよ』奇形化に対する執念、それは言ってみればエルフに向けての対抗心のようなものだただの能力者では発動できないほどの大能力、それを発動できるが故に強い力を有するエルフ、もちろんエルフの待遇は国によるのだが、ほとんどの国がエルフは強力な戦力として扱われる、ただの能力者では太刀打ちできないからこそだが自由に奇形化することができ、誰でもエルフ級の能力を発動できるようになれば今までのようなエルフの存在価値、そして希少価値は失われることになるこの事件の引き金を引いた人物が一体誰なのか、何が目的なのかはわからないが関わりがあるような気がしてならない確かにこれは面白い話だなと思いながら、静希は自分が書いたメモに目をおとす「でもエド、お前よくそんなこと調べられたな、そう言う情報ってほとんど部外秘だろ」静希が言うように、金の動向などというものは本来ほとんどが部外秘だ、株式会社なら株主総会という形で金額の動きなどを明記するのかもしれないが、肝心なところは隠すのが企業のやり口である所謂良いところだけを見せておくという事だ、騙すのとは少し違い、真実だけを書くことが重要な面倒な手法ではあるがマイナスイメージの付きにくいという利点があるそんな情報をどうやって仕入れたのか、静希は純粋に疑問だった『はっはっは、まぁいろんな会社に関わってるといろいろとコネができるのさ、敵の敵は味方じゃないけど、いろんな企業にもそれぞれの思惑とかがあってね、そう言うのを上手く利用しているんだ』「なんていうか、お前たくましくなったな、初めて会った時が嘘のようだ」それは褒められてるのかな?とエドは笑っているが、静希からしたらエドのこの変化はとてつもなく大きなもののように思えた静希とエドが初めて会ったとき、静希の目からはエドは頼りない男性として映った、典型的とは言わないものの研究者らしい人間だと思ったものだだが今のエドはどうだろう、社会の荒波にもまれた結果か、それとも悪魔の契約者となったことでの心境の変化か、かつてとは比べ物にならないほどの胆力を有しているように思える根本部分は変わっていないのかもしれないが、かつてのような弱弱しさにも似た様子は今のエドからは感じられない、どこか自信に満ちているようにも思える『ところでシズキ、このことはあまり多くの人には話さない方がいいと思うんだ』「まだ確定じゃないからってことか?」静希の返答にエドはそうだよと答える、確かにエドは先の話を話半分に、しかも彼がした仮定の話だと言っていた、証拠もなければ確証もない、今あるのはあくまで状況証拠のみなのだ仮にその企業が何らかの形で誘拐と奇形化騒ぎに関わっていたとなれば大問題だが、その確固たる証拠がないのだ、変に吹聴してもいいことなどないのはわかりきっている『僕はシズキを信頼しているからこうして話したけれど、周りの人間まではわからない、もしどこかからこの話が漏れて尻尾を掴めなくなるのは嫌だろうからね』その言葉に静希は何故エドが先程言うかどうか迷ったのかという事を理解した人の口には戸が立てられないのと同じように、どこからこの話が漏れるかわからないのだ、もし静希がどこかでこの話をして誰かがそれを聞いていて、そこから漏れることだってあり得るそうなった時、その情報がエドの言う企業の耳に入らないという保証はない、そうなったら証拠を隠滅される可能性だってあるのだそれを危惧して、エドは迷ったのだろう「・・・わかった、信頼のおける人間にだけこのことは伝えることにする・・・こっちでもいろいろと調べてみるよ、あくまでさっきの話とは無関係って形でな」『それがいいと思うよ、僕の方でもいろいろ調べてみる、何かわかったら追加で教えるよ』悪いなと付け足すと、向こう側が少し騒がしくなる騒音の中に聞き取れるのは高めの子供の声だ、恐らくアイナとレイシャだろう、何を騒いでいるのかまでは聞き取れないが、何かあったようだ「なんだか賑やかになってるな」『あはは、いやはや、彼女たちもなかなかどうして一人のレディだからね、思うところがあるらしいんだよ、あー・・・ちょっと待っててくれるかい?』そう言ってエドは受話器から離れると小さく二人を注意する声が聞こえてきた一体何が理由だったのかは不明だが、喧騒の原因は二人にあるらしい、あの大人びた二人からは想像できない光景があるのだろう恐らくエドには心を開き、ありのままの自分を見せているからこそそういう事が起きるのだと察すると、静希は小さく笑う静希と会っていた二人は所謂余所行きの、猫を被った状態だという事だ借りてきた猫のようと表現するのは少し間違っているかもしれない、むしろ背伸びしたい子供の猫というべきか『ごめんごめん・・・で、なんの話だったっけ?』どうやら二人への注意を終えたのか、エドが苦笑交じりに受話器に戻ってくると静希は思わず笑ってしまう「ん?お前の所は楽しそうだなって話だよ」『あはは、いやいやそんな話じゃなかっただろう?』冗談だよと静希は笑いながらそう言うと、エドは恥ずかしそうに、そして気まずそうに返す言葉を考えているようだっただが反論できるだけの材料がないのか、彼自身楽しいと思っているのか、それ以上何かいう事はなかった『冗談はさておき・・・シズキ、気を付けてくれ、誰かが大きな何かを企んでいるのは間違いない、どこに誰の目があるかもわからないからね、どうか気を付けてほしい』「それはむしろこっちの台詞だけどな、お前の方がこっちとしては心配だ・・・あぁでもカレンがいるから安心か?」カレン・アイギス、エドの会社に勤めることになったかつてのエルフ、悪魔の契約者、彼女がいればエドの身は安全だろう、少なくとも悪魔の契約者が二人もいるのであればおいそれと手を出せる状況ではないのは確かだ『おいおい、彼女は確かにしっかりしてるけどさ、僕の方が頼りになるだろう?』「どうだかな、もっとしっかりしてくれよ?社長殿」静希の軽口に、君からそう言われるのは悪い気分はしないねとエドは笑っている相変わらずの何とも言えないカリスマに、静希は笑みを浮かべ、件の企業の名前を聞いたあとでエドに別れを告げた十月から毎回四千字分投稿することになりました、今回は誤字報告が五件分溜まったので六千字分投稿です細かいルールなどは活動報告をご覧くださいこれからもお楽しみいただければ幸いです

「すまない、助かった」「いや、俺達こそビックリしたよ」 そう言いながら、俺達はテレビで状況を確認する

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『――今現在も、この二人組は逃走を続けており、警察は非常態勢を敷くなど――』 監視カメラの映像から、バッチリとデューク達の顔が映っており、かなりの大事(おおごと)になっていると、苦笑いが止まらない

 ――俺達はニュースでデュークとシモンがこちらへ飛ばされたことを知ると、目撃されたところ付近を捜索、かなり消耗していたところを発見したのだ